『レ・ミゼラブル』(2019) 【子ども一揆】問題提起だけじゃないのよ、映画は

映画『レ・ミゼラブル』の一場面 ドラマ
(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
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カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞、セザール賞で作品賞を受賞、アカデミー賞で国際長編映画賞(外国語映画賞)にノミネート、と評価の高いフランス映画です。

が、残念ながら僕には合いませんでした。

個人の好みの問題ですが、【問題提起】【社会的意義】だけの映画なのかなぁ、なんて思ったりしましたねぇ。

タイレンジャー
タイレンジャー

本作がお好きな方にはすみませんが、僕は低評価です。

作品概要

2019年製作/104分/G/フランス
原題:Les miserables
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ/ジョルダーノ・ジェデルリーニ/アレクシス・マネンティ
撮影:ジュリアン・プパール
音楽:ピンク・ノイズ
出演:ダミエン・ボナール/ジャンヌ・バリバール/アレクシス・マネンティ/ジェブリル・ゾンガ ほか

ビクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」で知られ、現在は犯罪多発地区の一部となっているパリ郊外のモンフェルメイユを舞台に、現代社会が抱えている闇をリアルに描いたドラマ。モンフェルメイユ出身で現在もその地に暮らすラジ・リの初長編監督作品で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。第92回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた。パリ郊外に位置するモンフェルメイユの警察署。地方出身のステファンが犯罪防止班に新しく加わることとなった。知的で自制心のあるステファンは、未成年に対して粗暴な言動をとる気性の荒いクリス、警官である自分の力を信じて疑わないグワダとともにパトロールを開始する。そんな中、ステファンたちは複数のグループが緊張関係にあることを察知するが、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事から、事態は取り返しのつかない大きな騒動へと発展してしまう。

映画.comより)

予告編

映画『レ・ミゼラブル』予告編

感想・考察(ネタバレなし)

問題提起、だけ?

アカデミー賞や世界三大映画祭を制する映画にはある程度の傾向があって、現実世界が抱えている何かしらの問題を扱っていて、その映画の存在そのものが【社会的にも意義がある】タイプというのが主流パターンの一つかと思います。

2019年で言うと、オスカーとカンヌの『パラサイト 半地下の家族』、ヴェネチアの『ジョーカー』がいずれも「貧困層から見た格差社会」をモチーフにしていましたね。僕は両作ともにあまり好きではないのですが、問題提起がありながらもエンタテイメントに昇華できているという点が評価されているのは理解できます。


奇しくも2019年は「社会の底辺」に目をきちんと向ける映画の潮流があったわけで、パリ郊外の犯罪多発地区を舞台にした本作もまたその一部なのだと思っていました。

ところが本作が上記の2作品と異なるのは、非常に写実的であるということです。エンタテイメントとは対極に近いドキュメンタリータッチなのですね。

舞台はアフリカ系移民が多く暮らし、治安も悪いモンフェルメイユという街。地方から転属された「まともな」警官ステファノがガラの悪い先輩2人と一緒にパトロールをし、負の連鎖に巻き込まれていくという物語です。

いわば警察密着24時のように、観客は新参者であるステファノの目線に立って、犯罪多発地区を「のぞき見ツアー」するかのような形式なんです。

マリ系である監督自身がこの街の出身といことで、何よりもリアリティ、写実性を重視したタッチになっており、映画的な派手で出来すぎな展開はありません。淡々と、冷徹に、フラットな目線で物語は進行します。

しかーし、写実的すぎるがゆえに、展開が慎重すぎるきらいがあり、開始後45分過ぎになるまで事件らしい事件が起きません。これには「何も起きんのかい・・・!」と痺れを切らし始めた僕がいました。最初の「事件」後も煮え切らない展開がじりじりと続きます。

『パラサイト』や『ジョーカー』が現実の社会問題をエンタテイメントとして【表現】してみせ、なおかつそれが映画としての売りになっていたのとは対照的です。本作は表現よりも「現実をありのままに伝える」ことに重きが置かれているように思いました。

問題提起を表現で料理するのではなく、問題提起を加工せずに産地直送するタイプの映画なのです(なんだこの例えは)。

なので、これはもう観客の好みの問題です。素材の味を生かすオーガニックな料理が好きなのか、様々な調味料でしっかり味付けした料理が好きなのか、みたいな話です。乱暴に言うと、ですが。

僕はタイ料理のように甘くて辛くて酸っぱい混沌とした料理が好きですし、映画もまた大げさでコッテリした内容のほうが好きなのです。

もちろん、問題提起があることは意義深いですが、それをどのように表現するのかが、映画を芸術たらしめる部分だと思うので、あまり写実的だと物足りなく感じるというのもあります。

映画『レ・ミゼラブル』の一場面

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「子ども一揆」は実はド定番ジャンル

では、本作の問題提起とは何ぞや、という話です。

これはもう誰が観ても明らかというか、本作の最後に引用されているヴィクトル・ユゴー(もともとのほうの『レ・ミゼラブル』の原作者)の言葉の通りですね。ざっくり要約すると、「子どもは育つ環境に左右される。今の大人の社会は子どもたちが育つ環境として相応しいだろうか」ということだと思います。

犯罪多発地区であるモンフェルメイユで育った子どもたちにとっては、その社会がすべて。子どもは生まれてくる環境を選べないのだから、せめて大人たちは人としての正しい道を教えてあげないといけないのですが、残念ながらモンフェルメイユにはそういう大人はいなさそうです。

他者に対して寛容ではない、主義信条が対立して分断が深まる社会の中で、子どもたちは大人たちから無理やりねじ伏せられるような圧迫感のあるなかで暮らしています。で、こんな社会はクソ食らえと、子どもたちは集団で武装し、大人たちに反旗を翻します。

・・・っていうのは昔からよくあるパターンの話ですよね。

当ブログが取り上げた中でも、リオデジャネイロの貧民街で小学生が銃で人を殺める世界を描いた超傑作『シティ・オブ・ゴッド』や

なんの理由もなく、子どもたちが突然、集団で大人たちを殺戮しまくる超怪作『ザ・チャイルド』もそうです。


あとは、こちらですかねぇ。

映画『ぼくらの七日間戦争』の一場面

Amazonより)

このほかに小説や漫画などほかのメディアにも目を向ければ、このパターンの話はキリがないほど多く存在すると思われます。

なので、本作の終盤の展開というのは特に新鮮味のあるものでもなく、且つこれらの前例のように映画的にデフォルメされているわけでもありませんから、「そのまんまやな」(真顔)という印象でした。面白くもなんともないのです。

僕の評価

3点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

期待をしていただけに残念です。僕はどうも「写実的であることに価値がある」映画と相性が悪いですねぇ。

どうでも雑感

・本作のポスターで用いられているヴィジュアルが、パリの凱旋門前におびただしい群衆が集結し、国旗を掲げる様子から、最初はてっきり「おフランス、ばんざい!」な映画かと思っていました。で、鑑賞してみると、これは本作の冒頭の部分で2018年ロシアW杯でフランスが優勝を遂げたときの熱狂の様子だったのですね。これは「自国への想い」って何だろな、という問いかけになっているように思います。

・関係ないですが、これを観て思い出したことがあります。とある日本人の大学生が『君が代』について冗談でもなく、「あ~、サッカーの試合のときに流す曲ね」とさらりと発言して驚愕したものです。個人の主義信条は尊重されるべきだとしても、周囲の大人はもっとマトモなことを教えられなかったのかと思いましたね。

鑑賞方法

『レ・ミゼラブル』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

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U-NEXT

※本ページの情報は2020年12月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

コメント

  1. じんちゅ より:

    この映画、なにかのタイミングで紹介されてたのを一瞬見た時に、タイさんに教えてもらって観た「シティ・オブ・ゴッド」風なのかなぁ、となんとなく思ってましたが、記事からもそんな感じがしますね。あと記事読んでて思ったのは「トレーニング・デイ」。まぁあっちはずっと飽きさせないストーリー展開なのでリアリティの中にもエンタメ性は高めですよね。

    • じんちゅさん、コメントをありがとうございますー!
      そうですね。本作は『シティ・オブ・ゴッド』とも比較されることが多いようですが、僕の中では天と地ほどの差がありました。
      どちらのほうが映画的な表現が優れているかって観点での話ですが。
      本作はちょっと写実的すぎて、もう少しチャーミングな感じがほしかったなぁと。
      『トレーニング・デイ』はいつか観たいなーと思っていてまだ手を出せていない映画でした。
      極悪デンゼルが意外にもハマるというのは『フライト』でも実感済みなので、楽しみですね。