『TENET テネット』「考えるな、感じろ」は都合が良すぎるぜ問題

映画『テネット』の一場面 SF
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なんか~~、本作に関してはあまり感想・考察を書こうという気力が湧かないのでぇ~、とりあえず思ったことを適当に書いていく【随筆】のスタイルで記していこうと思います。

なので、分かりやすい記事を書くつもりはありません!だって、分かりにくいことを良しとしている映画なんだから、観た者の感想だって分かりにくくたっていーじゃねーか、と。今回の内容は荒れ模様です。


タイレンジャー
タイレンジャー

僕の本作に対するスタンスとしては好意的ではない、とまずは言っておきましょうかね。

作品概要

2020年製作/150分/G/アメリカ
原題:Tenet
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽:ルドウィグ・ゴランソン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン/ロバート・パティンソン/エリザベス・デビッキ/アーロン・テイラー=ジョンソン/クレマンス・ポエジー/マイケル・ケイン/ケネス・ブラナー/ヒメーシュ・パテル/アンドリュー・ハワード ほか

「ダークナイト」3部作や「インセプション」「インターステラー」など数々の話題作を送り出してきた鬼才クリストファー・ノーラン監督によるオリジナル脚本のアクションサスペンス超大作。「現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する」というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描く。主演は名優デンゼル・ワシントンの息子で、スパイク・リー監督がアカデミー脚色賞を受賞した「ブラック・クランズマン」で映画初主演を務めたジョン・デビッド・ワシントン。共演はロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、アーロン・テイラー=ジョンソンのほか、「ダンケルク」に続いてノーラン作品に参加となったケネス・ブラナー、そしてノーラン作品に欠かせないマイケル・ケインら。撮影のホイテ・バン・ホイテマ、美術のネイサン・クローリーなど、スタッフも過去にノーラン作品に参加してきた実力派が集い、音楽は「ブラックパンサー」でアカデミー賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンがノーラン作品に初参加。

映画.comより)

予告編

映画『TENET テネット』本予告

感想・考察(ネタバレなし)

理屈を理解した者だけが本当に楽しめる

まぁ、本来はね、ユーザーが疑問に思っていること、知りたがっていることを、分かりやすく教えてあげることがウェブコンテンツ(ブログ含む)の存在意義でもあると思うんですよ。他人の問題を解決してあげることが社会的には価値がありますからね。

なので、クリストファー・ノーランの映画を分かりやすく解説してくれるブログなんかは社会に貢献していると言えるでしょう。『インセプション』や『インターステラー』がどういう理屈なのか理解できなくて(でも理解したい!)と、ググった映画ファンは数知れずのはず。

バリバリの文系である僕は『インターステラー』の理屈が全く理解できず、考察サイトを呼んでも「ふーん(鼻ホジホジ)。で、なんでなん?」ってな具合でした。作品を評価する上で、理屈の理解という壁を超えなくていかんのです。僕にとって『ダークナイト』には10点満点をつけるほどの大傑作ですし、ノーランの野心的な映画づくりの姿勢は好きです。でも彼の映画のうちのいくつかは難解で、やはり「理屈を理解する必要があるもの」です。

「難解な映画」の中にも「理屈を超越した映画」と「理屈が理解できないとツライ映画」があると思います。

前者は『2001年宇宙の旅』や『イレイザーヘッド』『アンダルシアの犬』あたりでしょうか。なぜそーなるのか解らん、どころか画面上で何か起きているか解らんレベルだったりしますが、理屈では説明のつかない凄まじい映像体験であるという興奮がまず先に来ます。理屈が解らなくても映画としての素晴らしさは揺るがない作品です。

『インセプション』『インターステラー』も一見、前者寄りに感じられますが、より理屈への依存度が高いという点で後者寄りと考えます。映像的な快感こそあれど、理屈が解らないと本当の意味で感動ができないようになっているように感じられるのです。

それはあたかも「ルールを知らないままスポーツ観戦をする」ことにも似ている気がします。華やかで肉体が躍動する壮観な様子は目を楽しませてくれますが、例えば「オフサイドって何だよ?」という知識の観客にとってはその競技の本当の面白さは見えてこないはずです。

だから、『インターステラー』の理屈(ルール)が理解できない僕は、同作の本質的な面白さに辿り着けていないのだと思いますね。感覚で楽しむのではなく、理屈を理解した者が楽しめる。それがノーラン映画の一面である、と。

ノーラン映画の考察を記したブログ、サイトが溢れていているのは、ノーラン映画のそういった特徴があっての話ですし、同時に「解らんが、それでも理解したい」人が多いことも物語ってますよね。

そして本作もまた、そういった特徴を持ったノーラン映画になっています。

映画『テネット』の一場面

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ノーラン映画のブランド感、イベント性

で、普通に考えてハードルの高いはずのノーラン映画が世間にどのように受け入れられているのかって話です。

思うに『インセプション』以降のノーラン映画って【ブランド感】や【イベント性】の強いコンテンツであったんじゃないかなぁと。

Apple社の製品って慣れていないと正直、使いづらいんだけど、他社にはないブランド感が所有欲を満たしてくれますよね。上質なものに触れることで自分を高めたいという人間に心理をうまく(いやらしく)突いている部分があります。ノーランの映画もそんなブランド感がありますね。内容は難しいんだけど、上質な映画っぽいから・・・。

もう一つ、古い例えでアレなんですが、2002年のサッカー日韓W杯の時はサッカーに詳しくない「にわかファン」なるものが急増しました。サッカーのルールはよく知らんけど、一大イベントだし、華やかだから見ていて楽しいという心理。ノーランの映画もまたそんなイベント的な求心力があります(ブランド感も相まって)。ルールは知らなくても表面的には楽しい、なんかスゴイ、という点は似ているかと。

そして、そんなブランド感もイベント性も、自己演出によって作りだされている部分も大きいと思います。映画ファンが認知する「ノーランらしい映画」をノーラン自身が意識的に、より過剰気味にやってみせたのが本作という感じがするんですよねぇ。そういう意味ではノーランの自己模倣映画なのかな?

自己模倣ということは、スタイル重視であり、ブランディングでもあると思います。誰が観てもノーランの映画、になっているでしょうから、それはある程度は成功していると言えるでしょう。自身の製作会社”SYNCOPY”のロゴがもはや徳川御三家の家紋のような威圧感を放っています。

ただ、スタイル重視であるがゆえか、映像や設定が奇抜で派手でノーランらしい一方で、肝心の物語性はすごく空虚な印象を受けました。

映画『テネット』の一場面

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「考えるな、感じろ」は都合が良すぎる

本作が空虚に感じられた理由としては、人間が描けていない、という点に尽きます。

誰もが気になるであろう、主人公の「名もなき男」が内面すらも描かれない、主人公という人間ではなく、「役割」でしかないドライな感じというのはかなり特徴的。本作は設定が難解な分、主人公の人間性は端折るという、かなり思い切ったことをやっていると思いますね。

で、その代わりなのか「人間としての葛藤」は、世界滅亡をたくらむロシア人(ケネス・ブラナー)の妻であるキャット(エリザベス・デビッキ)に託されているようです。でも、このエヴァンゲリオンのようなヒョロ長なキャットが人間としてはぜんぜん魅力的ではなんです。そりゃ見た目はいかにもモデル風で美しいですよ。でも、人間臭さが無い。

ゴージャスで謎めいていて人目を引くけど中身は空っぽな感じという、本作自体をそのまま象徴するようなキャラクターになっています。「美人は3日で飽きる」という言葉がありますが、中身が空虚な美人であれば3日どころか150分の上映時間すらも間が持たないのでは。

だから、キャットとロシア人の夫婦の駆け引きは100%どーでも良かったですね。

本作を最後まで見届けると、結局一番おいしい部分をかっさらい、且ついい感じのドラマを匂わせたニール(ロバート・パティンソン)が辛うじて人間らしさを見せたかもしれません。『ターミネーター』のカイル・リースの言葉を引用したのかのような「君だよ」の台詞は若干の取って付けた感がありましたが。

てなわけで、人間ドラマをほぼ排してまで、映像と設定に注力したわけですが、その設定が分かりにくいとあっては、観る人にとっては八方塞がりな映画かもしれません。

劇中の台詞にあるように「考えるな。感じろ」?それは理屈を理解しないといけない映画が言う台詞ではないでしょうに。それにその言葉は理屈を超越した存在こそが言えるのだと思うんです。だから、本作においては都合の良い感じに使われてしまった言葉です。

僕の評価

4点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

でも、退屈はしなかったですね。少なくとも。

どうでも雑感

・CGが嫌いでできるだけ実写での表現に拘るノーランですが、今回はデカい旅客機を倉庫に突っ込ませるという場面を本物を用いてやっています。が、毎回のことながら、その製作過程はすごいのだけど、度肝を抜く映像になっているかと言うとそうでもない、という欠点はありますね。効果がさほどないのに過程をアピールされてもなぁと。

・音楽はなかなか良かったですよ。マンネリ感のあったハンス・ジマーとのタッグではなく、ルドウィグ・ゴランソンによる電子音を中核に据えたスコアは雰囲気に合っていて、こちらは効果的でした。

・理屈については一応、劇中で説明はしてくれます。が、やはり説明不足の感があり、「まぁとにかくそういうことだ」と観客は押し切られます。意図的に難解にして観客に2度3度と足を運ばせる商法なのかもしれませんが、僕にとってはリピートしたくなるような「難解である魅力」は感じられませんでした。

鑑賞方法

『TENET テネット』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

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U-NEXT

※本ページの情報は2021年1月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

クリストファー・ノーラン監督作品/プロデュース作品

コメント

  1. キャン より:

    色んな人のレビューを見ても、「分かりにくいことは分かった」という印象しか持てない僕でしたが、「キャラの中身が空虚」というところは逆に気になりますね。
    「キャラクターが魅力的」なんていう評価は(主にドラマの番宣なんかで)定型句のように耳にしますが、それは最低条件であって売りではないだろうと思っていました。
    逆に、キャラは空虚で全然魅力がないのに面白いとしたら、それはそれで凄いことですよ。
    多分、みんなが話題にもしなくなった頃に見ると思います。

    • やはりキャンさんは大人ですね~。
      ぼくが批判的な記事を書いてもポジティブな見方をしてくれることが多いですね。
      そうか、そういう観点もあるのか、と。
      結局は人間ドラマを極力排してあって、時間逆行の設定と映像の力で押し切った作品なので
      そこに魅力を感じられるかどうかだと思います。