僕が紹介するまでもなく、『殺人の追憶』『母なる証明』で知られる鬼才ポン・ジュノ監督の最新作であり、韓国映画として初めてカンヌ映画祭でパルム・ドールを、アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した作品です。
ジュノ監督は「本作の中盤以降の展開は絶対にネタバレしないように」と発言されているので、以下はネタバレなしの感想ですー。(監督の言葉通り、たしかに中盤ではエエーッ!と驚く展開がありましたしね。)

確かに今の時代にこのテーマに切り込む意義は感じますが、エンタメとしては今一つ心には響かなかったです。
作品概要
2019年製作/132分/PG12/韓国
原題:Parasite
配給:ビターズ・エンド
監督:ポン・ジュノ
脚本:ポン・ジュノ/ハン・ジヌォン
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
出演:ソン・ガンホ/イ・ソンギュン/チョ・ヨジョン/チェ・ウシク/パク・ソダム/チャン・ヘジン/パク・ミョンフン/イ・ジョンウン/チョン・ジソ/チョン・ヒョンジュン ほか
「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」「スノーピアサー」の監督ポン・ジュノと主演ソン・ガンホが4度目のタッグを組み、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初となるパルムドールを受賞した作品。第92回アカデミー賞でも外国語映画として史上初となる作品賞を受賞したほか、監督賞、脚本、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)の4部門に輝くなど世界的に注目を集めた。キム一家は家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送っていた。そんなある日、長男ギウがIT企業のCEOであるパク氏の豪邸へ家庭教師の面接を受けに行くことに。そして妹ギジョンも、兄に続いて豪邸に足を踏み入れる。正反対の2つの家族の出会いは、想像を超える悲喜劇へと猛スピードで加速していく……。共演に「最後まで行く」のイ・ソンギュン、「後宮の秘密」のチョ・ヨジョン、「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチェ・ウシク。
(映画.comより)
予告編
感想・考察(ネタバレなし)
全世界で顕在化する格差社会の背景
本作は現代人が観ておくべき意義深い映画です。そのテーマはズバリ、格差社会です。
いまの世界は近未来ディストピア映画にも匹敵するえげつな〜い貧富の格差社会ですよ。
国際貧困支援NGO、オックスファムの2016年の報告によると、世界のトップ62人の大富豪が全人類の下位半分、すなわち36億人と同額の資産を持っているのだそう。
その一方で、世界銀行で定めた国際貧困ラインである1日1.9ドル未満で生活している人が世界に7億人もいる。
いやいや、遠い海外の出来事と思わないでくださいよ。日本だって7人に1人の子どもが貧困だと言われています。これは日本の水準よりずっと低い収入で生活せざるを得ない相対的貧困のことです(日本財団の調査による) 。
極端なことを言えば、世界は『マッドマックス 怒りのデスロード』のイモータン・ジョーの王国のようになりつつあると言っても過言ではありませぬ。 ボロ切れをまとったゾンビのような貧困層はただ空を見上げて、僅かな超富裕層がもたらす恵の水を待つしかなくなるのかもしれません。
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富裕層と貧困層の断絶
さて、本作の舞台は日本を超える格差社会、競争社会と言われる韓国。
仕事がねぇ!お金もねぇ!な貧困層の一家が主人公。その長男がめっちゃ高学歴と偽ってリッチなご家庭で家庭教師として働き始めます。 せがれ、でかした!とばりに、妹も父も母もそのリッチ家庭の甘い蜜を吸うべくあの手この手で家に出入りするようになるという話です。
大学に行ってない兄ちゃんが超一流大学卒業なんて嘘、すぐバレるだろ。なんて思って観てたら…不思議なことに全然バレないんだな、これが。
富裕層の目が節穴すぎるのか、貧困一家はまんまと富裕層に寄生することに成功していきます。
富裕層、なんで気付かんのだろ?
そこに意味があるんですよ。
本作が描いているのは格差社会における、富裕層と貧困層の埋めがたい断絶だと思います。
つまり、富裕層は貧困層のことを1ミリも気にしてないし、その存在すら知らなかったりもする。 そんな富裕層の無関心が、貧困層の怒りを買うというパターンが端的に描かれています。
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
それでも「おこぼれ」で生きていくしかない「ド底辺」
貧困層には分かるんですよ。政治家や大富豪が「貧困をなくそう」なんて言っても、彼らが貧困の実態を何も知らないということが。
韓国では文在寅大統領の主導による大幅な最低賃金引き上げが2年連続で行われました。国民の生活向上のためとされましたが、結果的に中小企業の経営を圧迫し、失業者が増えてしまったという本末転倒ぶりが象徴的です。
富裕層は貧困層のことなんてまるで分かっちゃあいないし、偽善も甚だしい。それでも貧困層は富裕層のおこぼれをもらって生きていくしかないという痛烈な皮肉が本作にはムンムンと充満しています。
この貧困家族の姿を見て「そんな悪知恵が働くならもっと簡単に仕事は見つかるだろうに」なんて思った人は気をつけたほうがいいですよ。 それって完全に富裕層の思考ですからね。マリー・アントワネットが飢える国民に対して「パンが無いならお菓子を食べれば?」と発言したのと同じですよ。 韓国のような学歴社会、格差社会においては彼らが得られる仕事は本当に無いに等しいのかと思います。
あと、「半地下の家族」が表すように、本作では家の構造そのものが格差社会を表す舞台装置になっています。まさに天国と地獄ほどの差があることを家の構造ひとつで表現しているのも見逃せません。
韓国に限らず、資本主義の必然として年月を経るごとに広まる格差。この不条理に対して貧困層が憤りを覚えるメカニズムがエンタテインメントとして昇華されているのが本作ですね。
ただ、僕はどうしてもテーマやメッセージの方を読もうとしたせいか、エンタテインメントとしては思ったほど楽しめなかったです。 思ったほど笑えなかったし、思ったほどのカタルシスも無かったなぁ、と。 観た人は概ね「面白い!」の大合唱なので、きっとそうなのでしょう。 面白いかどうかよりも、僕にとってはいい意味で「お勉強映画」でした。
僕の評価
6点/10点

社会問題を「家の構造」で表現したのは面白かったですが、後半の展開は今ひとつノレませんんでした。
どうでも雑感
・製作意図、テーマ、メッセージのいずれも「世界の今」を描いているので、まさに賞レース向きの映画ではありましたね。
・ポン・ジュノ監督の映画の中では『母なる証明』のほうが面白かったです。あちらの邦画結末も含めてしっくり来ました。
鑑賞方法
『パラサイト 半地下の家族』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。
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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。
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