『エンター・ザ・ボイド』【大傑作!】 性と薬物まみれの輪廻転生

映画『エンター・ザ・ボイド』の一場面 ドラマ
(C)2010 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION – BIM DISTRIBUZIONE – BUF COMPAGNIE
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うおおおお!こんな映画が観たかったのだ! 

本作は『アレックス』から7年もの間隔を空けて作られたギャスパー・ノエ監督作ですが、紛れもない傑作です!ノエの映画の中でもこれが最高傑作。

エロ、グロ、ゲスが全部そろっていて、特異なヴィジュアルで、挑戦的な内容で・・・と僕の好きな要素ばかりの映画なんですね。

タイレンジャー
タイレンジャー

語るべきポイントが多い映画なのですが、できるだけ簡潔に書くように努めます。

作品概要

2010年製作/143分/R18+/フランス
原題:Soudain le vide | Enter The Void
配給:コムストック・グループ
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
撮影:ブノワ・デビー
出演:ナサニエル・ブラウン/パス・デ・ラ・ウエルタ/シリル・ロイ/オリー・アレクサンデル/サラ・ストックブリッジ/エド・スピアー/丹野雅仁 ほか

「アレックス」で物議を醸したギャスパー・ノエ監督が、東京を舞台に固い絆で結ばれた兄弟を描く作品。東京にやってきたばかりのドラッグ・ディーラーの兄オスカーと、ナイトクラブでストリッパーとして働く妹リンダ。ある日、オスカーは警察の捜査に遭い、拳銃で撃たれてしまう。遠のく意識の中、リンダのことを強く思ったオスカーの魂は現世にとどまり、東京の街をさまよい出す。

映画.comより)

予告編

映画「エンター・ザ・ボイド」日本版予告編

感想・考察(ネタバレなし)

圧巻の輪廻転生体験

ざっくり言うと、本作は観客が主人公の「輪廻転生」を追体験する映画です。

銃殺された主人公の霊魂が肉体を抜けて(幽体離脱)、走馬灯のように自らの過去を振り返り、そして遂に転生に至るまでをほぼ主観映像(POV)で描いています。 さまよう霊魂は妹の性生活を眺めたり、ストリップバーやラブホテルの中を覗きに行ったりと、なかなかのやりたい放題です。男が霊魂や透明になればやることは皆同じ。 

舞台が東京である理由は「東京はセックスに囚われた街だから」とノエの談。これは猥雑で不道徳的で違法薬物にまみれた輪廻転生の物語です。 

ちなみに、ここで言う輪廻転生とは『チベット 死者の書』に基づいており、本作の中でも序盤に説明される同書の概要の通りに話は進んでいきます。 本作の構成について整理すると下記のようになります。 

第一幕:死(現在)
主人公が死に至るまで。主人公の主観映像だが、ドラッグでトリップする場面のみ「視点」が幽体離脱する。 

第二幕:走馬灯(過去)
主人公の霊魂が過去の記憶を辿る。ここでは主人公の背後に視点があり、彼の後頭部ごしに過去を見せることが多い。 

第三幕:転生(現在〜未来)
霊魂が東京を彷徨い、転生に至るまで。再び主観映像。 


前作『アレックス』で見せた「時間の逆行」というスタイルと、それがもたらす「悲劇が起きる前の日常の痛ましさ」という効果が本作では輪廻転生に応用されているのが分かります。 

そして、このスピリチュアルで東洋思想的な輪廻転生が見たこともないような映像技巧によって表現される様は圧巻の一言でした。 輪廻転生を主観映像で、なんて言われてもイメージが湧かないと思いますが、どこか『2001年宇宙の旅』のスターゲイトのシーンを彷彿とさせるものがありますね。「どうせCGだろ」と思わせぬ凄みがあるのです。

映画『エンター・ザ・ボイド』の一場面

(C)2010 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – LES FILM DE LA ZONE – ESSENTIAL FILMPRODUKTION – BIM DISTRIBUZIONE – BUF COMPAGNIE

スピリチュアル&ドラッグ

同時に本作はドラッグ映画としての側面もあります。 

まず序盤に主人公が幻覚剤をキメるシーンが驚き。主観映像なので、スーハースーハー吸って効いてきた途端にウニョウニョしたサイケデリックな脳細胞のような幻覚が視界いっぱいに広がり、それが数分にも渡って展開します。 

主人公は強い幻覚剤に手を出すジャンキーなので、輪廻転生の描写もどこかドラッグによるトリップ映像のように見える節があります。観る人によっては輪廻転生ではなく、終始トリップだったと感じても不思議ではありません。 

このスピリチュアル&ドラッグの話はどこから着想を得たのかという点に興味があったのですが、ノエのインタビューを読んで合点がいきました。 ノエは当初はケン・ラッセル監督のカルト映画『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』のリメイクをやりたがっていたそうです。


『アルタード〜』は生命の根源の探究のためにドラッグをやりまくる研究者の話で、LSDの影響と思われるサイケデリックな幻覚映像が見ものという作品。 「行き詰まった西洋文明がスピリチュアルなものに救いを求める」という点が本作と似ているのと、最終的には家族愛に着地するのも同じですねぇ。 

本作の兄妹は幼き頃に両親を亡くし、深い絆があるだけに、近親相姦に発展しそうな雰囲気(ノエ、近親相姦ネタ好きだな)があります。ただ、本作ではそういう過ちは起きず、純粋なシスコンでしたが。 

あと、おっぱいが母親の愛の象徴として描かれていたのも見逃せません。

映画『エンター・ザ・ボイド』の一場面

(C)2010 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – LES FILM DE LA ZONE – ESSENTIAL FILMPRODUKTION – BIM DISTRIBUZIONE – BUF COMPAGNIE

どこか東洋的なノエの死生観

鬼畜変態監督のイメージが強いノエですが、実は彼の作品の裏テーマは愛なのかもしれません。 

「取り返しのつかない事態により家族や大切な人との間が引き裂かれる」という物語パターンが多いのは「それゆえ何気ない普段の愛が際立つ」からであり、愛の裏返しとして凄惨な悲劇を描いているような気がします。 死を想うことがより良く生きる秘訣、というのと同じで逆説的なんですが、大切な人を失うことが愛の価値を強くするということなのではないでしょーか。 

ついでに言うと本作はノエの死生観が明確だという点でも興味深いです。死と生は対義ではなく、表裏でもなく、同じ流れの中にあるという考え方ですね。 

『カルネ』では馬の屠殺の直後に赤ん坊の出産を描き、『カノン』では大切な人を殺害する場合とそうでない場合を描き、『アレックス』では前半の死のイメージが後半は生に転生していく。 このように従来の作品にもそれは表れていましたが、本作ではそれがまさに輪廻転生となって明確化されたように思えます。 死は終わりではなく、生の始まりである。そんな東洋的な死生観を持ったノエがいつも退廃的な題材を扱うのはやはり「生きる」意識の裏返しなのかもしれません。 

・・・と、綺麗な感想で締めくくれたら良かったのですが、引っかかったのは本作のラスト。 まばゆい明るさと共にちょっと感動的ですらある転生シーンで幕を閉じた後、画面に大きく表示される文字が”THE VOID”。 虚無。 退廃と苦しみの果てに、新たな生まれ変わった開放感には似つかわしくない言葉です。 

これはノエのインタビューで真意が明らかになったのですが「人生こそが無。無意味だ」とのこと。 ある意味それは正しいのかもしれませんが、生に対してポジティブな一面を覗かせたと思ったら、一気に観客を突き放すノエ。やはりこの男は一筋縄ではいきません。 そういう点も含めて大好きです。

僕の評価

10点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

ノエの映画の中でも知名度が低いほうだと思いますが、解せませんねぇ。

どうでも雑感

・本作は賛否両論あるんですけど、僕は気持ちいほどハマりました。長いと言われがちなトリップ映像もひたすら気持ちよく(シラフで)、この映画自体のエクスタシーを堪能しました。輪廻というと綺麗に語られがちなんんですが、ノエが描くと煩悩まみれであった、というのが面白かったですね。

・幽体離脱した後の「浮遊感のあるカメラワーク」というのは前作『アレックス』でも観られましたね。まるでブライアン・デ・パルマがラリッたかのような超絶技巧だと思います。

・オープニングのタイトルバックも斬新でカッコいいですね~!スタッフやキャストごとにフォントが違うなんて、名前が載った人にとっては格別に嬉しいはずですよ。音楽がLFOの”Freak”というのもいいし。

鑑賞方法

あいにく2020年11月時点で『エンター・ザ・ボイド』はVODによる動画配信されておりません。
DMM.comの宅配DVDレンタルにて鑑賞をすることができます。初月は無料です!

アマゾンでブルーレイ販売もされているが、高い・・・。

※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

ギャスパー・ノエ監督作品

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