心が満たされる「幸せ」なホラー映画でした。
先に言いましょう。僕の本作への評価は10点満点です。 ドギツイ残酷描写、性描写が含まれていますが、それに反して観ている間の僕はずっと「幸せ」でした。こんなに心が満たされる映画は久しぶり。『シン・ゴジラ』以来です。
ジャンルとしてはホラー映画に分類されますが、表現方法がホラーなだけで、複数の重要な裏テーマが存在します。それらの裏テーマに心が動くかどうかが評価のポイントな気がします。

※以下、ネタバレなしの感想です。ただ、僕なりの解釈も書いているので、先入観を入れずに観たい人はそっと画面を閉じて下さい。
作品概要
2019年製作/147分/R15+/アメリカ
原題:Midsommar
配給:ファントム・フィルム
監督&脚本:アリ・アスター
撮影:パベウ・ポゴジェルスキ
音楽:ボビー・クルリック
出演:フローレンス・ピュー/ジャック・レイナー/ウィル・ポールター/ウィリアム・ジャクソン・ハーパー/ウィルヘルム・ブロングレン/ジュリア・ラグナースソン/アーチー・マデクウェエ/ローラ・トルキア/ビョルン・アンドレセン ほか
長編デビュー作「ヘレディタリー 継承」が高い評価を集めたアリ・アスター監督の第2作。不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。太陽が沈むことがないその村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心は次第にかき乱されていく。ダニー役を「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピューが演じるほか、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「パターソン」のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールターらが顔をそろえる。
(映画.comより)
予告編
感想・考察(ネタバレなし)
表面上の物語
牧歌的な美しい農村の奇祭に足を運んだ若者たちが次々と血祭りに遭うという話。
メルヘンチックで明るく美しい映像と
観客の心を揺さぶるグロ描写
これらのギャップがすごいです。
アリ・アスター監督の前作『へレディタリー/継承』が漆黒の闇のイメージが強かったのに対し、今回は陽光に包まれたお花畑ホラーです。
また、笑えるくらいの異常なエロ描写も素晴らしい。思えば20年前、キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』がとある展開を踏み止まったことに僕は不満があったのですが、本作はそんなことをドドーンとやってくれています。変態映画を追い続けてきた僕が報われた瞬間でしたね。
そして、本作は恐ろしく完成度が高いです。まず、世界観・設定があって、それらを描くディテールが画面の隅々まで行き届いています。
絵が出てきたら、舐め回すように観てください。必ずと言っていいほど、重要な意味や暗示が含まれています。特にいちばん最初に映る絵。
なので、2回目以降に観たときに細かい伏線(と言うか、暗示)の発見に「あーっ!」となります。それだけ非常によく作り込まれているんですね。
僕は劇場で3回観ましたが、まだまだ観たいです。
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監督が意図した裏テーマ
表面上はメルヘン血祭りである一方、
監督自身が語るように、本作は「失恋映画」でもありますね。
主人公カップルの関係性は冒頭から要注目です。彼女の気持ちを汲み取れない彼氏の至らなさがこれでもかと描かれています。
恐らくは監督自身が本作の彼氏のように「至らなかった」結果、失恋した経験を自虐的に描いているように思えます。
男性の無意識の言動が女性の逆鱗に触れるというのはよくある話で、男にとっては永遠の謎です(笑)。まぁ、大概は男が鈍感なだけなんですが。
ですが、本作は男が観ても「あ〜、女性の前でこの態度はアカンわ」と。「こんな男は捨てられて当然やろ」と。パートナーである女性に対してやってはいけないことが男性諸氏にとっても分かりやすいです。
例えば、彼女の誕生日を決して忘れてはならないし、お祝いするにしても準備不足を露呈するのは逆効果。
女性が精神的に満たされない場合、男は捨てられますからね。男がどんなに鈍感でも本作を観ればよく分かりますよ。
ホラー映画であること、夏至祭のことは忘れて、男女の関係だけに焦点を当てて観ても十分に面白いのではないでしょーか。
ただ、本当に失恋というテーマだけでここまで物語を発展させられるものでしょうか?どうやら、さらなるテーマがありそうです。
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さらに深読み
それはきっと「宗教」でしょうね。
家族全員を亡くした主人公の心の拠り所は彼氏のみ。でも「至らぬ」彼氏は彼女の心に寄り添うことができない。
男性よりもコミュニケーションにおいて共感することが重要な女性にとっては、悲しい時、苦しい時に一緒に泣いてくれる存在が必要。
でも、主人公の女性は泣くときはいつも1人なんですよ。
だから精神的な共同体を形成し、互いの感情を共有する村人たちは主人公を洗脳してきます。主人公が精神的に弱い状態、ひとりぼっちであることをいいことに。
まるで不幸な人を巧妙に誘い込んで入信させる一部の宗教団体のようです。不幸な人は勧誘しやすいと言いますから。
同時に、不幸な人が宗教にハマってしまったらなかなか抜け出せななくなる気持ちも分かってしまうのが本作の危険なところ。
大切な人を喪失した人にとっては「みんなが肯定・共感してくれるし、居場所になる」コミューンはどうしても良く見えてしまいますから。この村は喪失感も孤独感も味わうことのない究極の理想郷なんです。(不幸な人にとっては)
なぜ不幸な人が宗教にハマるのか。本作を観ればよく分かりますよ。
なので、家族や友人がどんなに「元の世界」に連れ戻そうとしても、それはかなり難しい。なぜ戻れなくなるのか、なぜその世界が良いのかがよく分かるからこそ、本作は怖いのです。
読み解けば、かなり歪ではあれど、不幸な人が幸せになる話です。
そういう視点で観れば最後は感動すら覚えます。ぽっかり穴が空いたままだった主人公の心は満たされるのですから。 「幸せは自分の心が決める」と言われたら、他人はとやかく言えなくなってしまいますが、その「幸せ」が何によって成り立つのかをホラーに見立てた映画だと思うんです。
主人公とは違う意味で、僕の心も満たされました。
僕の評価
10点/10点

素晴らしすぎる~~!ある意味、「人類補完計画」ですよね。
どうでも雑感
・主演のフローレンス・ピューちゃんが可愛い。まん丸の顔にずんぐりした体型。ごくフッツーの女の子っぽいんですが、僕が好きな大原優乃ちゃんみたいな、むっちりタヌキ顔でタイプです。似てはいないけど、系統がね、系統が。
・『ベニスに死す』(1971)で美少年役で有名だったビヨルン・アンデルセンにわざわざあの役をやらせるのはブラックなジョークですね。綺麗なお顔が売りだったひとですから・・・。
鑑賞方法
『ミッドサマー』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。
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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。
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