『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』ランティモスの準・最終形態!

映画『聖なる鹿殺し』の一場面 サスペンス
(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited
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意地悪で謎めいた映画監督ヨルゴス・ランティモスが『籠の中の乙女』『ロブスター』と作品を重ねるごとにウニョウニョと変容してきて、遂にその最終形態を現した!本作はそんな感じの映画です。

なぜ本作がランティモスの最終形態≒集大成かと言うと、今回も過去2作品と同じテーマが扱われており、完成度が高く、3作通して観ると決定打のようなダメ押し感があります。


タイレンジャー
タイレンジャー

過去2作との共通点から、本作を読み解いていきます。

作品概要

2017年製作/121分/PG12/イギリス・アイルランド合作
原題:The Killing of a Sacred Deer
配給:ファインフィルムズ
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリップ
撮影:ティミオス・バカタキス
出演:コリン・ファレル/ニコール・キッドマン/アリシア・シルヴァーストーン/ラフィー・キャシディ/バリー・コーガン/ビル・キャンプ ほか

「ロブスター」「籠の中の乙女」のギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、幸せな家庭が1人の少年を迎え入れたことで崩壊していく様子を描き、第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したサスペンススリラー。郊外の豪邸で暮らす心臓外科医スティーブンは、美しい妻や可愛い子どもたちに囲まれ順風満帆な人生を歩んでいるように見えた。しかし謎の少年マーティンを自宅に招き入れたことをきっかけに、子どもたちが突然歩けなくなったり目から血を流したりと、奇妙な出来事が続発する。やがてスティーブンは、容赦ない選択を迫られ……。ある理由から少年に追い詰められていく主人公スティーブンを「ロブスター」でもランティモス監督と組んだコリン・ファレル、スティーブンの妻を「めぐりあう時間たち」のニコール・キッドマン、謎の少年マーティンを「ダンケルク」のバリー・コーガンがそれぞれ演じる。

映画.comより)

予告編

映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』予告編

感想・考察(ネタバレなし)

比喩、メタファー、象徴

難解だとも言われるランティモス映画ですが、これまでの3作に共通する話の根底は「主体性の無い人物が洗脳に支配され、自らの願いを叶えるために痛〜い代償を払うことになる」です。物語もテイストもそれぞれ異なるものの、その根源的な部分は同じだと考えます。

より細かく分割すると、
①主体性の無い人物
②洗脳
③代償
ですね。

3本も続けて同じことやってんだから俺のメッセージにそろそろ気付けよ、と意地悪なランティモスに言われているかのようです。いや、でもこれを読み解くのはけっこう難しい。

同時にランティモスはそんな難問に対しての大ヒントを本作で提示するという観客への優しさ?も見せています。具体的にはマーティンの台詞「これは比喩だ。メタファーだ。象徴だ。」です。…それ言っちゃう?

つまり表面的な物語は、根底にあるテーマの象徴であって、テーマを読むことがランティモス映画にとっては重要である、ということです。

だから、ワケワカラン!で済ますのはランティモス映画を鑑賞するお作法とは異なるんですね。深読みすることが強いられるのがランティモス映画だと思います。

映画『聖なる鹿殺し』の一場面

(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

主体性の無い人物

本作の主人公で心臓外科医のスティーヴン。この人の話し方はぜんぜん抑揚が無くて、何考えてるか分からない感じなんですね。だんだんロボットみたいに見えてきます。

もちろんエリートであることも含めて彼自身の能力によって成功を手にした人物で、仕事もプライベートも要領良くサクサクっとやってきたタイプなんですが、最初は彼自身の願いや欲求、エゴが表面に出てこない。

牧羊犬に促されるままに動くだけの羊みたいな人間です。全2作の主人公と同じように。

こんなロボットみたいな旦那を相手に奥さんはよく我慢してられるなーなんて思ってたら、案の定ブチ切れたのには笑いました。それを受けた旦那が故障したロボットのようにトチ狂うのにはさらに爆笑。
やはりこういう意地悪ギャグは流石のランティモスです。

結局、このスティーヴンは最後まで自分で判断できないんですね。主体性の無さゆえ、最悪の運任せになってしまいます。(最後のルーレットは笑えないけど、笑える余地もあるような、反応に困る感じです)

洗脳

主体性の無さゆえ、洗脳されるのでしょうか。それとも洗脳された結果、主体性が無くなるのでしょうか。たぶんその両方なのでしょう。

ランティモス映画の主人公は皆、なす術なく洗脳に支配されてしまいます。人を洗脳することに対しては強く否定的なスタンスのランティモスですが、洗脳される側があまりにも無力であることも共通しています。

この辺は現代人に対する痛烈な皮肉が効いていると思います。洗脳と支配を受けていない人は皆無なんじゃないかと。

ただ、全2作は洗脳の実態が「まやかし」であることは明白でしたが、本作はどうやら本当らしい、という点は違っています。実際にスティーヴンの子どもたちは非現実的にも歩けなくなり、食事もできなくなります。この違いはどのように捉えてよいかがよく分かりませんが。

洗脳の一方で、各作品の主人公たちがそれに反発するように自我に目覚めていく過程も興味深いです。この段階でようやく人間らしくなってくるんですね。もっと単純に言えば、エゴが出てきます。

ただ、その「ロボット人間の人間化」がハッピーエンドには帰結しないのです…。

代償

本作もやはり代償モノでした。

全2作では自らの願いを叶えるために、身体の一部を欠損させる行為がありました。本作ではそれが「家族の1人を殺す」になっています。

洗脳や支配から逃れる為に代償を払うのですが、結果としてより大きな、別種の支配のもとに置かれたりと、出口の見えない後味の悪さはランティモスらしいですね。

痛い思いをしたのに報われないのは何とも不条理に思えますが、「世の中そんなもんだろう」なのです。報われない信仰心を見せられているかのようです。

ラストの荘厳な音楽と共に描かれる敗北感はまさにそんな感じでした。

映画『聖なる鹿殺し』の一場面

(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited

さいごに

以上3点が『籠の中の乙女』『ロブスター』そして本作に共通するキーワード、テーマだと思いますが、その一貫性は気持ちいいくらいです。3部作と考えて良いのでないでしょーか。

本作は広すぎる奇妙な画角、ハッタリ気味の不協和音、ホラー映画風のテイストといった要素は大いに僕のツボを刺激する怪作でした。

ランティモスにはさらに毒々しい映画を撮ってもらうことを期待して、本作は「準・最終形態」としておきましょうかね。さらなる最終形態が今後あるでしょうから。

いいぞ〜!ランティモス。もっと毒々しい映画を撮っておくれ。

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

いつも以上に禍々しいこの感じは僕好みです。やはりランティモスの集大成にして決定打だと思いますね。

どうでも雑感

・ほんと、厭な映画ですよねぇ。厭なんだけど、俯瞰で見たような独特の距離の置き方があって、滑稽に見えたりするのが面白いなと思います。

・アリシア・シルバーストーンは20年ぶりくらいに見た気がしますが(最後はバットマン&ロビン?)、こういう役にもってくるか~とこれまたランティモスのいけずで笑。『ブラックスワン』で言うウィノナ・ライダーみたいな使い方でしたね。それでも可愛いい面影はありましたが…。

鑑賞方法

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

ヨルゴス・ランティモス監督作品

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