『イット・フォローズ』【ややバレ考察】大人になることが若者にとっての死

映画『イット・フォローズ』の一場面 ホラー
(C)2014 It Will Follow. Inc,
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「セックスした奴は悪霊らしきものに襲われる」というステキな設定で、僕はこれ大好きなんですよねぇ。

久々に観なおしてみましたが、やはり【感覚的に好き】でしたし、いつまで経っても余韻が冷めない映画という印象は寸分も変わることなく、いやむしろ愛おしいという気持ちすら沸いてくるほどです。

意図的な余白を持たせてあるがゆえに、「不完全な作品」かもしれませんが、僕のなかでは「ほぼ完ぺき級」に好きな映画です。

タイレンジャー
タイレンジャー

何度でも繰り返し観たくなる、中毒性の強い映画です。

作品概要

2014年製作/100分/R15+/アメリカ
原題:It Follows
配給:ポニーキャニオン
監督・製作・脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
撮影:マイケル・ジオラキス
音楽:ディザスターピース
出演:マイカ・モンロー/キーア・ギルクリスト/ローレン・バス/ジェイク・ウィアリー/ダニエル・ゼヴァット/リンダ・ボストン ほか

捕まった者に死が訪れる謎の存在=「それ」に付け狙われた女性の恐怖を描いたホラー。低予算ながら斬新なアイデアでクエンティン・タランティーノから称賛され、全米で話題を呼んだ。ある男と一夜を共にした19歳の女子大生ジェイ。しかしその男が豹変し、ジェイは椅子に縛り付けられてしまう。男はジェイに「それ」をうつしたこと、そして「それ」に捕まったら必ず死ぬことを彼女に告げる。「それ」は人にうつすことができるが、うつした相手が死んだら自分に戻ってくるという。ジェイは刻一刻と迫ってくる「それ」から逃げ延びようとするが……。本作が長編2作目となる新鋭デビッド・ロバート・ミッチェルが監督・脚本を手がけ、「ザ・ゲスト」のマイカ・モンローが主演を務めた。

映画.comより)

予告編

映画『イット・フォローズ』予告編

感想・考察(ややネタバレあり)

意図的な余白が長~い余韻を生み出す映画

まず、本作はぜんぜん明快ではないことにその特徴があります。

意図的な説明不足であり、そもそも説明的な描写を端折っていたります。ただ、断片的なヒントのようなものは無造作に散りばめられていて、観客がその断片が物語の中でどのように機能しているかを理解できぬまま「意味を推測」する必要があるんですよね。

明快なつくりの映画の場合は、点と点が繋がって線になるように、伏線が回収されたり、断片同士が繋がることで意味を持つことが多いです。ところが、本作は線にならないままのただの点が散らばっているような部分がけっこうあります。

なので、「だいたいのストーリーは分かったけど、細かい部分はよくわからん」「あの場面は何の意味が?」「あの場面のあとはどうなった?」というように思われる方が多いのではないでしょうか。

かく言う僕も劇場公開時に本作を観て、その独特なタッチに大いに魅了されたと同時に「よく分からん!」と思い、考察サイトを読み漁ったりしました。そして意味が分かると目からウロコな映画だと思います。

「分からない」ことに魅力のある映画ですし、同時に「分からん」だけで済ますと意味をなさない映画でもあります。

このように不親切とも言えるくらい、余白だらけの映画なのですが、それがまた観終えた後も興味関心が持続する、尾の長~い余韻へと繋がっています。僕の中では4年前の初見時から本作の余韻はいまだに冷めることがありません。

というわけで、僕なりの考察を書いていきます。ちなみに作品の解釈は観た人それぞれが「自分なりの正解」を持っていれば良いと思うので、あくまで以下はマイ解釈である旨、ご了承を。

映画『イット・フォローズ』の一場面

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大人になってしまうことが若者にとっての死

最大の謎は、ゆっくりと後を追ってくる「それ」が何を意味しているのか、に他ありません。

セックスを介して「感染」するので、性病やHIVの喩えだとも言われていたようですが、これは監督自身が否定、「ゆっくりと迫りくる、死そのもの」の喩えであったと発言があったようです。実際に様々な考察サイトに目を通しても、それと同じかまたは近い内容のものが多かったです。

僕もその解釈に納得ですが、死に至る前の「大人になってしまう」過程もまた「それ」に内包されているのでは、と考えます。

本作の地味な特徴としては、大人がほとんど出てこないという点があります。主人公である19歳の女子大生ジェイをはじめ20歳前後の若者ばかりが登場し、ジェイの母親や大学講師、警察官などの大人たちは僅かに登場すれど、画面にはほとんど映らないので存在感が極限的に希薄です。

「それ」に追われることになってしまったジェイを救おうと同年代の若者たちが立ち向かうという物語で、そこには驚くほど大人が介在していません。ジェイと母親の間には親子らしいやり取りは僅か。僕は2回目の鑑賞でようやく母親の存在に気づいたくらいです。

本作の中では大人はいてもいなくても良い存在感であり、むしろ若者から大人に対する不信感が伺えます。冒頭の犠牲者である女の子こそ父親に対する愛を口にしていましたが、ジェイとその仲間たちが大人を頼りません。

しばしば挿入されるデトロイトの廃墟だらけの荒廃した景観が映し出されるのには、大人がつくった社会に対して夢も希望もない若者の心象が読み取れます。あの廃墟の数々はジェイたちが大人に対して抱くイメージそのものなのかもしれません。

加えて印象的なのは、姿かたちを変えて現れる「それ」がグレッグ(チャラ男風)の母親やジェイの父親の姿になったりすることです。見た目だけで言えば、親が子を殺しにやってくるわけですから、ここもまた何か象徴的な意味があると考えるべきでしょう。

グレッグを襲う「母親の姿をしたそれ」はグレッグを性的に犯しますし、「父親の姿をしたそれ」を目にしたジェイは「何が見えるかは言いたくない」と意味深な発言をします。まるで父親の存在に触れることがタブーであるかのように。

これらから匂ってくるのは親から子に対する性的虐待の含みです。親に犯されるなんてのは子にとっては決して起きてほしくない悪夢ですが、その潜在意識の表れなのか、ジェイに至っては過去に父親との間にそれは起きたことが仄めかされるような一幕でした。

つまり、ジェイとその仲間たちは大人というものを信じておらず、自分たちがじきにそちら側になってしまうことに不安を抱いているように思えるのです。なりたくない大人になってしまうことが若者にとっての死である、そんな捉え方もできるかと思いました。

映画『イット・フォローズ』の一場面

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この監督の作家性とは

監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルの作家性に注目して本作を読み解くのも面白いと思います。

長編デビュー作にあたる『アメリカン・スリープオーバー』は意外にもホラーのホの字も無いような青春映画でした。高校生たちがひと夏の「お泊り会(スリープオーバー)」を通じて体験する甘酸っぱくもほろ苦い青春を描いた作品です。

で、この作品もまた、その内容からか大人がほとんど出てこなかったと記憶しています。ここでもまた大人が介在しない若者だけの世界が描かれているんですなぁ。

違うのは大人に対するネガティブなニュアンスが見られないという点ですね。青春映画とホラーとジャンルは違えど、「大人不在の光と闇」と言う点で本作とは対を成す作品のように思えます(ま、本作も本質的には青春映画だと思いますが)。

そして本作の後に製作され、一般的には評価が芳しくなかった『アンダー・ザ・シルバーレイク』は主人公はアラサー男子ながらも、自立していないダメ男と言う点でギリギリ青春映画とも言えます。

しかも、このアラサー男は妄想癖があって、世の陰謀論にとりつかれます。ここでもやはり「大人の社会」に対する不信感があり、大人になることを拒否している人物の話なんですなぁ。

なので、この監督のジャンル的な作風というのは毎回異なれど、根底にあるものは3作品とも同じであるような気がしますね。すべてがピーターパン症候群の変化球なのでは。

映画『イット・フォローズ』の一場面

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ラストには僅かに希望の意味合いもある

何とも鬱屈としたスッキリしない(意味深な)終わり方をする本作ですが、決して閉塞感だけでなく、僅かな希望も感じさせます。

ジェイとその仲間たちは「大人になることを恐れている」と書きましたが、その中で唯一大人になる覚悟ができているように思えるのがポール(一途な童貞)です。ジェイに想いを寄せるポールですが、劇中では様々な男たちに先を越されてしまうという不憫なキャラクターですが、純愛でジェイと向き合っているのも彼だけ。ほかの男たちはカラダ止まりですから。

単にカラダ目的でもなく、感染させるでもなく、心からジェイを想って抱いたのはポールだけ。ラストで手をつないで俯きながらも歩く二人は大人になること(いずれ訪れる死)を受け入れているようにも見えます。そこにはポールの覚悟と責任が伺えます。

結局、大人になること、死ぬことから逃れることはできない。それでも愛する人と一緒に生きる覚悟と責任を持てますか?と問われているかのようです。こうして童貞だったポールはジェイと共に大人の仲間入りを果たすのですが、ゆっくり背後に迫りくる「死」と二人が揃って歩く「覚悟と責任」、そしてそこにいたる「成長」がない交ぜになった終わり方になっていると感じました。

やはり本作はただのホラー映画ではありません。死を想うことがより良く生きるヒントになることを教えてくれる作品なのです。

僕の評価

9点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

余韻が蓄積されすぎて感想が長くなっちゃいました。

どうでも雑感

・ディザスターピースによる音楽が最高ですよね!ジョン・カーペンター風というか、ファミコン風というか、80年代のシンセサイザー的なジリジリとしたディストーションが堪らない。サントラ買いました。

・本作はカメラワークもイイ!冒頭と中盤で360度ぐるりと回転するカメラが効果的でしたな。

・主人公ジェイを演じたマイカ・モンローが可愛いんですよね~。この女優さん、本作以外の代表作が『インデペンデンスデイ リサージェンス』なので作品には恵まれてない印象が・・・。

・屋根の上の全裸のおっさん仁王立ち。これも最高。

鑑賞方法

『イット・フォローズ』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

・U-NEXT |31日間無料トライアルキャンペーン実施中

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※本ページの情報は2021年1月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督作品

コメント

  1. じんちゅ より:

    アマゾンプライムでも視聴できたので観てみました。
    正直言うと、自分にはタイさんが絶賛するほどの映画とはおもえないなぁ、というのが鑑賞中の感想です。
    なんだか無駄なシーンが多いように感じたし、BGMもなんだかなぁ、と。
    ただ発想はおもしろいな、と。なので、鑑賞中は どういうオチにもっていくんだろう? 「リング」だとビデオを人に見せれば解除できるわけだが、解除の方法はすでに最初から示されてるわけだしなぁ、どうやってオチるんかなぁとばかり考えてたのがよくなかったのか、あの終わり方はいかにもって感じで、、、
    ただ鑑賞後にすこし解釈などを検索してみると、”歩いてくる限り、前をむいて常に前進しつづければ、あの怪物に襲われることはない ”というメッセージが込められているとあって、なるほどなぁ、と唸らされました。
    あと気になったのは、ジョニー・デップを意識しているような近所のあんちゃんを襲ったのは、実のお母さんなのでしょうか???あんちゃんと母親の近親相姦を匂わせているのかなぁと疑問におもいました。

    • おお~!じんちゅさんもご覧になられましたか!
      映画評価サイトを見るとイマイチ・・・という評価がけっこう多いようですが、本作は僕が個人的に偏愛している度数が高い作品だと思います。
      BGMは完全に好みですね。僕は冒頭から鼻血ブーの大興奮のカッコよさでした。
      ただ、映画を観終わってから様々な解釈を調べている過程が本作の本質に近づく過程なのかと思います。
      「本当に観ている」状態になるのは観終わった後なんですよね。

      近所のチャラ男風のグレッグが母親の姿かたちをした「それ」に犯されて息絶えたた場面ですが、
      あれもやはり大人(親)になることへの恐怖意識の表れなのではないかな、と思います。
      しかも、男子にとっては母親と性的行為に及ぶことなど一番の悪夢ですからね。
      もともと近親相関があったとまでは読み取れませんでしたが、ジェイもグレッグも、
      潜在的にそういうことを恐れていて、「それ」はわざわざその方法で殺しに来るということなのかなぁと。

      いや~。こうやって語ってるとキリがないくらい楽しいです。

  2. ブー より:

    タイレンジャーさんこんばんはぶー(о´∀`о)ブーもこの作品見ましたぶー。なんか、ジェイ、好きな女の子が抱かれるのを切ない思いでスルーしなきゃいけないのがかわいそうでしたぶ。
    死=大人になること、、、なるほどと思いましたぶー!!!!

    • ブーさん、こんばんは。
      あの童貞君の心中察するに胸が張り裂けそうな気持になりますが、最後の彼にはジェイを守っていこうという覚悟が見られて頼もしく感じました。
      責任と覚悟が生じることで大人になったなぁと。
      でも、それこそが責任と覚悟とは無縁の若者にとっての死ではあるんですよね。