「ルーカスのアソコは太くてピンと上を向いているの」と幼女が戦慄の告白(虚言)。
幼稚園職員のルーカス(バツイチ42歳)は無実ながらも幼稚園児虐待の疑いをかけられ、孤立を深めていくというデンマーク映画ですね。
個人的にはこういう「血祭り」が起こる背景をもっと知りたいなと思うのですが、その辺の話をば。

冤罪で人生が狂ってしまうのはやるせないですなぁ。特に田舎は。
作品概要
2012年製作/115分/R15+/デンマーク
原題:Jagten | The Hunt
配給:キノフィルムズ
監督:トマス・ヴィンターベア
脚本:トマス・ヴィンターベア/トビアス・リンホルム
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
音楽:ニゴライ・イーイロン
出演:マッツ・ミケルセン/トマス・ボー・ラーセン/アニカ・ビタコプ/スーセ・ウォルド ほか
「セレブレーション」「光のほうへ」で知られるデンマークの名匠トマス・ビンターベアが、「007 カジノ・ロワイヤル」「アフター・ウェディング」のマッツ・ミケルセンを主演に迎えたヒューマンドラマ。変質者の烙印を押された男が、自らの尊厳を守り抜くため苦闘する姿を描き、2012年・第65回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞ほか3冠に輝いた。親友テオの娘クララの作り話がもとで変質者の烙印を押されたルーカスは、身の潔白を証明しようとするが誰も耳を傾けてくれず、仕事も親友もすべてを失ってしまう。周囲から向けられる侮蔑や憎悪の眼差しが日に日に増していくなか、それでもルーカスは無実を訴え続けるが……。
(映画.comより)
予告編
感想・考察(ネタバレなし)
集団リンチの背景は?
うーん。思ったよりも普通。
・・・なんて書き方をすると、当弱小ブログをわざわざ読んで下さる皆さんの時間を無駄にさせるようで気が引けるのですが、率直な感想はそれですね。
幼女の虚言によって、幼児性愛者の烙印を押され、大炎上、村八分、集団リンチの刑に処される無実の男の話には「ナニコレひっでぇな」と思うものの、個人的に興味を抱くポイントが抜けているために、物足りないな、と。
それは標的を見つけては集団で徹底的に叩きのめす民衆の心理と、そこに至る背景・要因ですね。
本作ではクララという幼女が想いを寄せたルーカス(バツイチ42歳)に恋文の受け取りをやんわり拒否されたことから、ちょっとした「仕返し」にルーカスによる性的虐待の話をでっち上げます。クララがルーカスを攻撃するのはフラれた腹いせなので、それは分かります。
でも、その他の人物たちがなぜそこまで問答無用にルーカスを血祭りにあげるのかの背景や要因が見えないので、そこかもう少し匂わせる程度でもあったほうがより深みがあったのではと思うのです。
例えば、幼稚園の園長(女性)がルーカスの言い分をほとんど聞かずに、クララの証言のみで事を進めてしまう展開があります。子どもを守る立場ゆえ、そうなるのは分かりますが、ちょっと慎重さが足りないな~。例えば、もともと園長はルーカスに不信感を抱いていて・・・という前フリがあれば、この展開は分かりますが。
愛妻家で子煩悩なパパをアピールしていた芸能人が、不倫スキャンダルが報じられた途端に「今が叩き潰すチャンス!」とばかりに猛烈に袋叩きに遭うのもそうですが、集団リンチには「前フリ」というものがあったりします。それも、「愛妻家だと思っていたのに!」と反動が作用するパターンと、「やたら愛妻家アピールしていて怪しかった」と元から目を付けられていたパターンと様々です。
さらに酷いのは本人とは無関係な事象に対する民衆の不満の矛先が向いてしまうパターンですかね。スケープゴートです。こっちの方がより理不尽で、集団心理の醜さをまざまざと見せつけることになります。いわゆる「胸糞映画」にしたいのなら、このパターンを使わない手はありません。
このデンマークの片田舎には鬱屈とした不満が溜まっており、批判される側が民衆の目をそらすために「ルーカスは幼児愛者のクソ野郎だから排除すべし!」と流布する、なんて話だったら僕はもっと好みだったかなということです。
まぁ、それって「内政がマズくなったら、外に敵を作って、民衆の目をそちらに向けさせれば良い」というどっかの国がよくやる手法でもあるんですけどね。
(C)2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.
日常を急襲する匿名攻撃
それでも、本作が観客に強烈なハードパンチを喰らわすのが、「平穏を切り裂くような突発的な暴力」です。
何気ない穏やかな日常に突如、ギロチンが落ちてくるような不意打ちこそが本作の白眉だと思いますね。しかも、最悪なのがこの暴力が「匿名」なんですね。犯人が不明というわけです。
ルーカスとその家族に危害を加える者は、自らの正体を見せることなく、不意打ちをしてきます。これはまるでSNSにおける匿名性を盾にした言葉の暴力のようでした。自分は身を隠せる場所にいながら、逃げ場なしの相手に石を投げる行為がどれだけ卑劣であるかって話ですよね。
英題の”The Hunt”にもそういう意味合いがあるんでしょうか。ルーカスはいつ狩られるとも知れぬなか、震えて日々を過ごしていくことになるのかと思うと、やるせないです。
先日、『透明人間』(2020)を観ましたが、見えない相手から襲撃される恐怖という点では本作の方が上ですね。
ちなみに、本作の舞台となるデンマークは世界幸福度ランキングで第2位(2019年調べ)だそーです。「北欧ってなんかいい感じ~」と言われがちですが、個人的には北欧の暴力ってえげつないし笑えないものが多いっす。なんか陰湿なんですよね。日本と似ていて。
僕の評価
6点/10点

集団リンチに至る前フリが物足りなかったものの、全体的には見応えがあります。
どうでも雑感
・ルーカスとその息子の親子愛には「おおっ」と思わされました。あんなに父親の為に闘う息子はなかなかおらんやろ、と思うだけにツライんですよねぇ。
・ルーカス渾身の頭突きには留飲を下げましたね。泣き寝入りはしないところがステキ。
・ルーカスの恋人になる同僚が英語とデンマーク語を使い分けていたので国籍どこ?と思っていたのですが、演じた女優アレクサンドラ・ラパポートがスウェーデン人なんですって。これこそ、どうでも情報。
鑑賞方法
『偽りなき者』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。
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※本ページの情報は2021年1月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。
コメント
うーん、なんて理路整然として分かりやすい解説なんだろう…。
ネタバレなしでここまでのレビューが書けるなんて、羨ましい限りです!
僕の知る限りでは、幼稚園の先生って親以上に子供のことをよく見ているので、子供の虚言を鵜呑みにして同僚を糾弾するというのは確かに違和感がありそうですよ。
しかしクララちゃん、なんてオマセさんな…。
「クララが立った!」を改変した下ネタがありましたが…まぁやめときましょうね!
おお~!幼稚園の先生の話、それはいいことを聞きました。やっぱりそうなんですね。
本作はそこら辺の描き方が少し単純すぎたかな?と引っかかっていたので、それを聞けて良かったです!
クララちゃんがその言葉が持つ意味を正しく理解せずに話してしまったので、
事が大きくなってしまいましたが、幼女の言葉としてはインパクトありますよね。
立ったではなく、勃ったのほうですかね?