『天と地』【感想・考察】これはベトナム戦争版『嫌われ松子の一生』だ!

映画『天と地』の一場面 ドラマ
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オリヴァー・ストーンのベトナム戦争三部作の最後の作品にして、最も地味な作品。アメリカ側から描いたベトナム戦争映画は数多く存在するけど、本作はベトナム人視点のベトナム戦争映画をアメリカ人が製作したとい珍しいもの。

タイレンジャー
タイレンジャー

ベトナム戦争という題材だけど、本質は女性一代記です。

作品概要

原題:Heaven and Earth
1920年/アメリカ/141分
監督:オリヴァー・ストーン
原作:レ・リー・ヘイスリップ
脚本:オリヴァー・ストーン
撮影:ロバート・リチャードソン
音楽:喜多郎
出演:ヘップ・ティー・リー/トミー・リー・ジョーンズ/ジョアン・チェン/ハイン・S・ニョール/デビー・レイノルズ ほか

ゲリラから娼婦に、そしてアメリカ軍人と恋に落ちて渡米、異なる文化圏での生活を経た後に、再び祖国の地を踏んだヴェトナム人女性の数奇な運命を通して、ヴェトナム戦争の意味を問う大作。実在する女性レ・リー・ヘイスリップの同名回顧録を原作に、「JFK」のオリヴァー・ストーンが監督・脚色。「プラトーン」「7月4日に生まれて」とともにストーンの「ヴェトナム三部作」を成すといわれる。製作はA・キットマン・ホーとロバート・クライン。エグゼクティヴ・プロデューサーは「スリー・リバーズ」のアーノン・ミルチャンと「クリフハンガー」のマリオ・カサール。撮影はストーン作品の常連であり「ア・フュー・グッドメン」のロバート・リチャードソンがそれぞれ担当。音楽は日本から「十五少女漂流記」の喜多郎が参加している。主演は本作が映画初出演のヘップ・ティー・リーと「JFK」のトミー・リー・ジョーンズ。「抱きしめたいから」のジョアン・チェン、「キリング・フィールド」のハイン・S・ニョール、「ハリウッドにくちづけ」のデビー・レイノルズらが脇を固めている。

(映画.comより)

予告編

Heaven & Earth (1993) Official Trailer – Oliver Stone, Tommy Lee Jones Vietnam War Movie HD

感想・考察(ネタバレなし)

女性の波乱万丈な人生

と、書くと朝ドラみたいな話のように聞こえる。 実際に僕も観る前はそう思っていた。ベトナム版『おしん』かな?みたいな。

『おしん』はアジア各国でも広く認知され、愛されている素晴らしい作品だが、本作の作り手は橋田壽賀子先生ではなく、ベトナム帰還兵でもあるオリバー・ストーン。当然もっと刺激的だ。 

侵略、拷問、レイプ、不倫、妊娠、売春、渡米、離婚… 
朝ドラはムリだな、こりゃ。 

これらの要素に抵抗感を抱く人も多いだろうけど、本作は意外と観やすい。むしろ、似ているなと思うメジャー作品がこれだ。

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「天と地」はベトナム戦争版「嫌われ松子の一生」と思って下さい(主観強め)。 

松子のようなミュージカル展開こそ無いものの、似たようなテーマの作品だと思う。多少の下世話ありの「人生いろいろ」。本作はベトナム戦争ものだけど、テーマとしては女性の苦難という普遍的なものだと思う。 純粋無垢な女性が変な男に引っかかることだってあるでしょうよ。それは日本も、戦時中のベトナムも同じなのです! 

色々あって、米兵のイイ人(トミー・リー・ジョーンズ)と結婚したんだけど、その後がねぇ…。ジョーンズの演技が作品に深みをもたらしています。  イヤーな展開は確かに多いのだけど、それでも最後は自分の人生を受け入れるという前向きな締めくくりになっています。後味も良い! (松子の後味が良かったかは忘れた)

監督のベトナム愛が炸裂!

本作はベトナムの平和で美しい農村の描写から始まる。 

実際はタイで撮影されたらしいけど、平地に石灰岩がニョキニョキ突き出た景観はいかにもベトナムっぽい。青々とした水田の美しさ、農民の素朴な生活を描く映像は美しい。 

このオープニングを観ただけで、オリバー・ストーンのベトナム愛が強く感じられる。 ストーンがベトナム帰還兵というのは知られた話だけど、実は従軍の前に英語教師としてベトナム滞在をした経験があるそう。その後、帰国した後に今度はわざわざ志願して戦場へ行っている。 

 きっと、ベトナムの美しい風景、女性が若きストーンを魅了したのだろう。それだけが理由ではないだろうけど、本作を観ているとストーンはただのベトナム戦争経験者というだけでなく、同時にベトナムそのものも愛していたのだと思える。

 主人公を演じたのは実際にベトナム人で、ヘップ・ティ・リーという当時の新人。いかにもベトナムの農村の娘という感じ。変に美人過ぎないのが良かったと思う。

冒頭の純朴な農村風景の描写のあと、主人公と母親の会話が始まるのだけど、これがズッコケ。  ベトナム人同士が英語で会話しとる。 他の村人も、ベトコンも、サイゴンの金持ちも、お坊さんも、皆、英語! 

これはね、映画製作当時は仕方なかったと思いますよ…。「ちゃんと現地の言葉でやろうよ」ってのが一般的になったのは「キル・ビル」とか「パッション」あたりからだもんね。 米国映画なのに、登場人物の大半はベトナム人。台詞がベトナム語ばかりではさすがに米国公開は(商業的に)厳しいという事情があったのかと。この点はストーンも本望ではなかったろう。

ベトナム戦争は過去のもの?

個人的な話をすると、僕はカンボジアだけでなく、ベトナムもまた大好きな国だ。 12歳の時に『地獄の黙示録』を観て以来、ベトナムにはある種の憧れがあった。 現在では仕事でたまに行くのだけど、現在のベトナムは発展目覚ましく、数々の映画で目にしてきたベトナム戦争が遥か昔のことであると感じられる。 

現地の人に思い切って「米国がベトナムにしたことをどう思うか」と訊いたら、「それはもう過去のこと。今は気にしていない。年配の人でもそうだ」という答えが返ってきた。 米国がいつまでもベトナム戦争についてメソメソと反省しているのとは対照的に、ベトナム人は過去ではなく未来を見ている。 

それは本作の主人公と重なるところがあり、あらゆる苦難を乗り越え、自分の過ちを受け入れ、それでも生きていくという強さだと思う。ベトナム人は強い。  

同時に、ベトナムはしたたかな国家でもある。特に外交は上手い。ベトナムは米国から戦争の賠償金を受け取っていない。民間人の虐殺、枯葉剤の散布があったにも関わらずだ。なぜかと言うと、賠償金を受け取る=その問題は解決、と国際的には見なされるから、敢えて受け取らないということだ。その代わり、その点は米国に対しての交渉材料になる。「ベトナム戦争」は米国にとって喉元に突きつけられた剃刀のようなものだ。ベトナムは声高に「賠償しろ」とは言わない。でも、米国に無言の圧力をかけることができる。ギャーギャーと他国を責めるよりも、効果的な外交だと思う。

(画像はIMDbより引用)

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

本作はベトナム人がベトナム戦争をどのように捉えているかが見える映画でもあるので、オススメ!物語もシッカリしていて、テンポも良いです。

どうでも雑感

・主人公の父親を演じたハイン・S・ニョールはベトナム人ではなく、中国系カンボジア人です。『キリングフィールド』(1984)でアカデミー最優秀助演男優賞を受賞しています。

鑑賞方法

残念ながら2020年10月時点で本作は動画配信されておりません。
DMM.comの宅配DVDレンタルにて鑑賞をすることができます。初月は無料です!

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