『ロスト・ハイウェイ』【ややネタバレ】感想・考察:女と男ではこうも違う「変身」の目的

映画『ロスト・ハイウェイ』の一場面 サスペンス
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デヴィッド・リンチの映画で『マルホランド・ドライブ』とセットで見比べてほしいのが本作。
特に、男性と女性がそれぞれどのように感じたのか聞いてみたいところです。
まぁ、例によって男の愚かさが全開の傑作ですね。

タイレンジャー
タイレンジャー

本作と『マルホランド・ドライブ』のネタバレを若干、含んでいます。

作品概要

原題:Lost Highway
1996年/アメリカ/135分
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ/バリー・ギフォード
撮影:ピーター・デミング
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:ビル・プルマン/パトリシア・アークエット/バルサザール・ゲイティ/ロバート・ブレイク/ロバート・ロッジア ほか

鬼才デビッド・リンチ監督が「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」以来5年ぶりに手掛けたサスペンス作品。妻の浮気を疑う人気サックス奏者フレッド。彼はある日「ディック・ロランドは死んだ」という謎のメッセージを受け取る。そしてその翌日から、彼の元にビデオテープが届き始める。1本目には彼の家の玄関が、2本目には寝室が、そして最後に届けられたテープには、彼が妻を惨殺する様子が収録されていた……。

(映画.comより)

予告編

Lost Highway 1997 Official Trailer

感想・考察(若干ネタバレ)

女性的な『マルホランド・ドライブ』、男性的な『ロスト・ハイウェイ』

『マルホランド・ドライブ』と本作は同じような話だと、前回の記事で書いた。 

加えて、この2作は女性的か、男性的かという点で対になっていると思う。 
まず単純に、主人公がそれぞれ女性、男性という違いがあるだけではない。 他人への変身願望というのが両作に通じているテーマのひとつ。「変身」したそれぞれの主人公が何を求め、どう動いていくかという点であまりに大きな差異がある。 

『マルホランド〜」のダイアン(ナオミ・ワッツ)はベティに変身することで、汚れのない天真爛漫な姿で登場し、女優である叔母さんの素敵なお宅に滞在し、キラキラした映画の世界で成功の道を歩み、行く宛のないリタを助け、共に悩み、共感し、結ばれる…を妄想する。 

一方、「ロスト〜」のフレッド(ビル・プルマン)はピートに変身することで、何を妄想したかと言うと… ただのセックス三昧だ(笑)。

 女と男では、こうも違うのか!

同じような話でも主人公が女か男かでは、展開も雰囲気も、何もかもが変わるという点を逆手に取って、まるで異なる(ように見える)作品を2本仕上げたのかな、と思う。過剰なまでのエロスと暴力に満ちた本作に比べると、『マルホランド〜』はそういう要素は控え目で、主人公の【感情】に何よりも重点が置かれている。 

両作は同じような話なのに、なぜ『マルホランド〜』の方ばかり褒められるのだろう?と、ずっと不思議に思っていたのだけど、やっぱり女性客の支持を得ることができたのが大きかったのかなぁと。 完全に男脳の僕は本作の方が好きですけどね。

映画『ロスト・ハイウェイ』の一場面

(IMDbより)

あまりに極端な女性不信

実際に本作はかなりのオトコ目線な映画だ。 僕が思うに「女は信用ならん」という極端なテーマが本作の裏にある。

 フレッドは妻が浮気をしていると疑い、ピートは「自分は女に利用されているだけでは」と疑心暗鬼になっていく。 特に、後半のピートとアリスの関係が深まるにつれて、アリスのふとした挙動に違和感を覚えていく展開は男なら誰しも一度は経験があるのでは? 泣いていたアリスが現金強奪計画の話になると急にスラスラと話し出すあたり、聞かされる男は戸惑うだろうな…。「あ、やっぱり自分は騙されてるわ」っていう。 

実際には、本作は「女は信用ならん」と思い込んでいる男が勝手に自滅するだけなんですけどね。 他人に変身しても、結局また女に裏切られるフレッドは情けなさ全開だけど、フレッドもピートも女心を分かってなさそうだからなぁ。当然の結果か。 

リンチ作品の中でも本作の女性不信っぷりは際立つものがあるので、この時期、リンチはプライベートで何かあったんだろうか、と勘ぐってしまう。

映画『ロスト・ハイウェイ』の一場面

(IMDbより)

音楽映画としての『ロスト・ハイウェイ』

もともとリンチは突出した音楽センスを持った作家だけど、本作は様々なアーティストの既存曲の使用が非常に多く、バラエティに富んでいる。 サントラは収録曲も多いし、超オススメだ。

サントラのプロデューサーはこれまた僕が大好きなナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー。 どうだ、この大充実っぷり。

Track listing
“I’m Deranged” (edit) – David Bowie – 2:37
“Videodrones; Questions” – Trent Reznor featuring Peter Christopherson – 0:44
“The Perfect Drug” – Nine Inch Nails – 5:42
“Red Bats with Teeth” – Angelo Badalamenti – 2:57
“Haunting & Heartbreaking” – Angelo Badalamenti – 2:09
“Eye” – The Smashing Pumpkins – 4:51
“Dub Driving” – Angelo Badalamenti – 3:43
“Mr. Eddy’s Theme 1” – Barry Adamson – 3:31
“This Magic Moment” – Lou Reed – 3:23
“Mr. Eddy’s Theme 2” – Barry Adamson – 2:13
“Fred & Renee Make Love” – Angelo Badalamenti – 2:04
“Apple of Sodom” – Marilyn Manson – 4:26
“Insensatez” – Antônio Carlos Jobim – 2:53
“Something Wicked This Way Comes” (edit) – Barry Adamson – 2:54
“I Put a Spell on You” – Marilyn Manson – 3:30
“Fats Revisited” – Angelo Badalamenti – 2:31
“Fred’s World” – Angelo Badalamenti – 3:01
“Rammstein” (edit) – Rammstein – 3:26
“Hollywood Sunset” – Barry Adamson – 2:01
“Heirate Mich” (edit) – Rammstein – 3:02
“Police” – Angelo Badalamenti – 1:40
“Driver Down” – Trent Reznor – 5:18
“I’m Deranged” (reprise) – David Bowie – 3:48

(Wikipedia より引用)


既存曲が台詞以上に物語るシーンが多いのも本作の特徴。例えば、ピートがアリスに一目惚れするシーンで流れるルー・リードの”This magic moment”なんかはあまりにもストレートすぎるくらいだ。もうちょいヒネってよ!ベタなんだけど、選曲がイイ!心情をそのまま歌で表現するシーンは他にもあるので、ミュージカルに近いとすら感じる。 

そんな音楽がテンコ盛りなので当然、立川シネマシティの極上音響上映との相性も抜群で(2018年1月に特集上映)、ここぞというキメ曲でしっかり効果的な音響調整がされていたと思う。立川シネマシティさん、本当にありがとう! 劇場ではなくとも、良い音響設備で観て欲しい音楽系映画だ。 

ただ、流石に既存曲を使い過ぎた感もあり、そんな反省?もあってか、以降のリンチ映画では音楽は最小限の使用に留められている。 やはり他のリンチ映画と比べても本作の音楽の連打っぷりは過剰だ。でも、過剰な暴力、過剰なエロス、過剰な音楽というのは僕の映画の好みにそのまま合致するので、僕にとってはやり過ぎくらいがちょうどイイ。

(画像はIMDbより引用)

僕の評価

9点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

音楽もヴィジュアルもゴチャゴチャと要素が多いのが『マルホランド・ドライブ』とは対照的ですね。やりすぎ万歳!

どうでも雑感

・とりあえずパトリシア・アークエットが脱ぎまくっています。

・ピート役のバルサザール・ゲイティにもう少し魅力があれば後半ももっと良くなるのになぁ。ちょっと俳優としての「挌」が足りなかったかな。

鑑賞方法

『ロスト・ハイウェイ』はU-NEXTで鑑賞できます。31日間無料トライアルなのでぜひ。
(2020年10月時点)

デヴィッド・リンチ監督作品

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