デヴィッド・リンチのファンである身からすると、少し物足りない映画ではあります。
というのも、本作はリンチ映画の「あるパターン」通りの作品であり、その点においては意外性が無かったからでもあります。

今回はネタバレありで行きます!
作品概要
原題:Mulholland Drive
2001年/アメリカ/146分
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ
撮影:ピーター・デミング
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:ナオミ・ワッツ/ローラ・ハリング/ジャスティン・セロー/ロバート・フォスター ほか
マルホランド・ドライブで起きた車の衝突事故で記憶を失った女は、近所の家に迷い込み、女優の卵ベティと出会う。同居することになった2人は、いっしょに彼女の素性を調べはじめるが……。音楽はいつものA・バダラメンティ。編集は公私ともに彼のパートナーであるM・スウィーニー。撮影は「ロスト・ハイウェイ」のP・デミング。美術は「イレイザーヘッド」で惑星の男を演じたリンチの高校時代からの親友、J・フィスク。
(映画.comより)
予告編
感想・考察(ネタバレあり)
リンチの支持層を拡大することに成功した映画
非常に評価の高い本作だけど、リンチ信者の僕としては少し微妙だ。
一言で言うと、ちょっと物足りない、という感じ。
物語の表面と裏面が終盤で切り替わる構成は見事だし、主演女優ふたりはとても魅力的。
謎は謎のまま煙にまかれるリンチらしさも健在だ。
同性愛が大きな要素を占めていたり、エログロはやや控え目で観やすい。
「女性向け」な趣きもあって、従来とは異なる客層にもアピールすることに成功した作品でもある。
ただ、『イレイザーヘッド』『ブルーベルベット』『ワイルド・アット・ハート』に比べると何かが物足りない、という感じがする。 もちろん好きな映画なんだけど、あと一歩、と思ってしまう。
物足りないと言えば、『ロスト・ハイウェイ』もそんな感じだ。 その物足りなさの正体が何であるのかは、長年まったく分からずにいたけど、先日の「イレイザーヘッド」で自分なりに答えが見つかった気がする。
どういうことかというと、『マルホランド・ドライブ』と『ロスト・ハイウェイ』は『イレイザーヘッド』と同じ話だということなんですね。
リンチ映画、現実と妄想の構造
解釈にもよるけど、あまりに受け入れがたい現実に耐えられず身を滅ぼす者が妄想に逃避をする、というのがどの作品にも共通している。
以下、ネタバレあり
『イレイザーヘッド』
現実:ヘンリーは妻に逃げられ、奇形児の育児に憔悴していく
妄想:苦しみの無い天国のような場所で、ヘンリーはコブ女と愛し合う
『ロスト・ハイウェイ』
現実:フレッドは浮気をしていた妻を殺害してしまう
妄想:フレッドは他人(ピート)に変身することで、妻と愛し合う
『マルホランド・ドライブ」
現実:ダイアン(ベティ)は売れない女優で、愛し合っていたカミーラ(リタ)に捨てられてしまう
妄想:ダイアン(ベティ)は将来有望な女優の卵で、リタと結ばれる
このようにザックリ書けばわかり易いのだけど、実際に観るとどこまでが現実でどこまでが妄想なのかが意図的に分かりにくくしてあるのがリンチ映画の特徴であり、面白さでもある。
ただ、こういう物語と構造は既に『イレイザーヘッド』で観ていたので、後の『ロスト〜』と本作に対しては既視感があったのだと思う。そういうの前も観たし、みたいな。
特に、妄想世界においては自分が「他人」になることで願望を実現させようとする点で『ロスト〜』と本作はよく似ている。 なので、物足りなさの正体は無意識に感じていた既視感だったのだと思う。もちろん、この「リンチのパターン」を歓迎するファンも多いでしょう。しかもそのパターンを用いて従来とは異なる客層にもアピールすることに成功したのだから、非常に高度なマンネリをやってのけたのかなと。
また、本作の場合は、他人に変身してやり直すという願望が女の嫉妬とうまく絡んで、リンチ映画でも珍しく「せつない気持ち」にさせられる。若干ではあるけど、そんな「入りやすさ」もまた物足りなさの一因だったりして。
(画像は映画.comより引用)
僕の評価
8点/10点

もちろん本作は素晴らしいのですが、従来のリンチ映画に比べるとやや控えめかな?という感じです。
どうでも雑感
・本作、展開がすごくゆったりしてるんですよね。なかなか進まないので初見時はすこしイライラしましたが、伏線が多いことをかんがえるとそれでもいいのかなぁ、ということである程度は納得できました。
鑑賞方法
2020年10月時点で『マルホランド・ドライブ』はアマゾン・プライム、ビデオマーケットなどで動画配信されております。
また、DMM.comの宅配DVDレンタルにて鑑賞をすることができます。初月は無料です!

コメント