『ザ・チャイルド』(1976) 【不条理】なぜ子どもたちは大人を殺すのか

映画『ザ・チャイルド』の一場面 ホラー
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【注意】小さいお子さんがいるご家庭、妊娠中の女性にはおすすめしません。 

これは「理由もなく、子どもたちが大人たちを殺す」という点が何とも怖い映画です。

ただ、時代背景を考えると、子どもたちの異常行動も多少は理解できるのかもしれない、ということについて書いていきますー。

タイレンジャー
タイレンジャー

ヒントになったのはヒッチコックのあの映画ですかね?

作品概要

1976年製作/スペイン
原題:Quien Puede Matar A Un Nino?
配給:ジョイパックフィルム
監督:ナルシソ・イバネッツ・セラドール
原作:J・J・プランス
脚本:ルイス・ペニャフィエル
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
音楽:ワルド・デ・ロス・リオス
出演:ルイス・フィアンダー/プルネラ・ランサム/アントニオ・ランソ/ミゲル・ナルロス/マリサ・ポルセル/マリア・ルイサ・アリアス ほか

ある島に観光に来た夫婦を無差別に襲う子供達を描いた恐怖映画。77年ファンタスティック国際映画祭批評家大賞受賞作品。製作はマヌエル・ペレス、監督は「象牙色のアイドル」のナルシソ・イバネッツ・セラドール、脚本はルイス・ペニャフィエル、原作はJ・J・プランス、撮影はホセ・ルイス・アルカイネ、音楽はワルド・デ・ロス・リオスが各々担当。出演はルイス・フィアンダー、プルネラ・ランサム、アントニオ・イランソなど。

映画.comより)

予告編

Who Can Kill A Child? 1976 Trailer | Lewis Fiander | Prunella Ransome

感想・考察(ネタバレなし)


本作はヒッチコックの『鳥』がそうであるように、純真な子どもたちが理由もなく大人たちを襲うという、不条理なホラー映画です。 

一般的に映画の中では、反社会的人物の動機や目的を描いてその行動に「意味」を持たせることが多いのですが、個人的には動機や目的が見えない犯罪の方が怖いです。 本作では子どもたちが白昼堂々、無邪気に大人を殺していくのだから怖いったらありゃあしない。そして本編の中では彼らの動機も目的も語られることはありません。 

こんなシーンがあります。 少女が老人をステッキで撲殺。止めに入った主人公が少女を問いただす。「なぜこんなことを…!?」 

少女は屈託のない笑顔で 「えへへへへ~(笑)」 

怖。 

この子どもたちは集団的に「大人を殺せ」で意思統一がされており、一種の洗脳のような能力を持っているような描写もありますが、その仕組みも定かではありません。 子どもたちがゾンビの群れのように襲ってくる様子はチャイルド一揆とも言うべき禍々しさです。

本来、一揆というのは支配者に対する要求があって反乱を起こすことなのですが、ここでは要求が無いことから「理由なきチャイルド一揆」になっており、不条理であることこの上なし、です。 お子さんを持つご家庭に限らず、誰が観ても不快度の高い映画ですが、本作の作り手は一体何を思ってこんな内容の映画を撮ったのでしょうか。

映画というのは社会や個人に関する何らかの問題の比喩(メタファー)であることが多いです。でもそれは作り手に意図を訊いてみたり、観客が深読みしたりしなければ表面上は見えてこないものです。 だから、作品の中で「実はこんな社会問題をホラーとして表現してみたんだよーん」とバラすのは無粋だったりします。 

しかし、本作はそんなメタバレを冒頭からカマしてきます! 

※メタバレ…メタファーをバラすこと。物語の展開や結末をバラすネタバレとは違います。 

モノクロの記録映像に重苦しいナレーションで見せるのはアウシュビッツ収容所、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ナイジェリア内戦。これらの愚行の中で常に犠牲となってきたのは罪のない子どもたちである、と。 つまり、子どもたちがオトナ社会に反旗を翻しても不思議じゃないよね、と前置きしてるんですね。 

なんとも無粋にして冗長なオープニングですが、今じゃテレビ放送はムリな過激映像と、「らーららららー」と子どもたちが歌うテーマ曲のコンビネーションが異様な雰囲気を醸し出しています。 

本作はこうして当時の社会的背景を説明してくれた訳ですが、当時は子どもが大人を殺すということが実際に起きていた時代ですから、本作の内容はあながち突飛とも言えません。 

70年代、リオデジャネイロのスラム街ではストリートギャングが血を血で洗う抗争を繰り広げていましたが、少年ギャングも多かったのだそう。小学生くらいの子たちが拳銃を持って人を殺すのが日常茶飯事という世界です。これは超傑作『シティ・オブ・ゴッド』でも描かれた通りですね。

また、時を同じくしてポルポト時代を迎えていたカンボジアでは多くの少年兵が育成されました。医療知識が全く無い子どもたちに外科手術を執刀させるという拷問・人体実験まがいのことまで行われていたそうです。 ポルポト時代を生き延びた人に話を聞くと「何よりも怖かったのは子どもです。彼らは褒められれば人を殺すのも平気になってくる」という証言が出てきたりするそうです。 

本作の作り手はブラジルやカンボジアの出来事を知らずに映画を仕上げたはずですが、同時代の不条理な惨劇を予見していたかのような内容には凄みがあります。 

悪魔の子、ダミアンが有名な『オーメン』も本作と同年に公開されていますから、当時の社会的不安と「まさか子どもが…」という大人がいちばん嫌がる潜在的な悪夢が生み出した作品なのでしょうね。 清々しいまでの後味の悪さ、という点も両作品は共通しています。 ご鑑賞は要注意ということで。

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

結末は見事なものだったと思います。『鳥』『オーメン』『シティ・オブ・ゴッド』と見比べるのもオススメ。

どうでも雑感

・系統としては70年代パニックものの流れを汲んでいるかもしれませんね。サメだ!クマだ!と言っていた時代に子どもを持ってくるという発想がスゴイです。しかも社会に警鐘を鳴らす内容になっているという…。

・2012年にはメキシコでリメイク版が制作されたそうです。

鑑賞方法

あいにく2020年11月時点で『ザ・チャイルド』はVODによる動画配信されておりません。

※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

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