『ចងពៀរ (英題: The Spell)』 (2018) 感想:カンボジア産、お盆ホラー

映画『The Spell』の一場面 ホラー
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タイトルのចងពៀរは「ちょーんぴーあー」と読みます。ចង(ちょーん)は結ぶ、縛る、ពៀរ(ぴーあー)は死者の怨念、という意味で、合わせると「死者による呪縛」ということになるようです。カンボジアのホラー映画ということで劇場で鑑賞。さて、どーなんでしょーか。

タイレンジャー
タイレンジャー

日本人には馴染みのないカンボジア映画の特徴についても書きます。

作品概要

原題:ចងពៀរ
2018年/カンボジア/84分
監督:アミッド・ドゥベイ
脚本:アミッド・ドゥベイ/ジェレナ・ドゥジャク/マイケル・ホグソン
出演:トーン・タネット/スヴェン・ソチアータ/サリタ・レット ほか

あらすじ:
舞台はカンボジア南部の海辺のコテージ。そこに引っ越してきたカンボジア人の新婚夫婦。ラブラブ新婚生活が始まるはずが、ふたりの周りで奇怪な現象が相次ぐ。どうやら、このコテージに棲みつく悪霊の仕業らしい…。

予告編

ចងពៀរ/The Spell – Trailer 2

感想・考察(ネタバレなし)

なぜかホラー映画が大好きなカンボジア人

カンボジア人は心霊ホラー映画が好き。特にこの国の映画産業を支える若い客層がそう。映画館の客席を見渡すと、いつも10~20代の若年層が圧倒的に多くて、アラフォーの僕が「長老」なんじゃないかと思うことが多々あります。

で、映画館が若者のスポットとして定着しつつあるカンボジアにおいては、やはり若者をターゲットにしたホラー、ラブコメの国産映画が増えてきているそうです。

本作がそんな「若者向けホラー」かどうかは分かりませんが、今回も僕は長老だった模様。

映画の最初の30分くらいはだいたい予想通りで、登場人物と舞台の説明をサクッと終えたら「では早速いってみよー!」とばかりに、小さな恐怖シーンが連続して描かれる。先日に観たインドネシア産ホラー映画の『サードアイ』みたいに、ひたすら恐怖シーのみで成り立っている映画なんじゃないかと思ったわけです。ええ。

ホラーの裏に、カンボジアらしいテーマ

しかーし、物語の中盤から本作の本当のテーマが浮き彫りになってきて、作品の様相が変わってきます。テーマは2つあって、1つは愛憎劇、もう1つは家族の和解です。これらは実にカンボジアらしいテーマだなぁと。

軽くネタバレすると、悪霊というのは主人公夫婦の旦那のほうの元彼女の幽霊で、奥さんに対する嫉妬から、2人に危害を加える。

日本人の感覚からすると、「そこまで嫉妬するー?共感できないにしても理解に苦しむなぁ」と思われるでしょう。でも、カンボジアの女性はたいへん嫉妬深いです。

一般的には旦那さんに尽くしてくれるタイプの女性が非常に多い。ただ、旦那さんを想うあまり、嫉妬に転じると大変という訳です。外出中の旦那さんに奥さんから電話がかかってきて、「今どこ?誰といる?何をしている?」と根掘り葉掘り訊かれるという話はよく耳にします。阿部定のような事件も起きているそうで、もし旦那さんが浮気をしようものなら文字通りの命がけではないでしょーか。

悪霊になってしまった元彼女の祟りっぷりは極端な部分もありますが、カンボジア女性なら、さもありなん、と。

というわけで、心霊ホラーでスタートした本作は途中からドロドロの愛憎劇にシフトチェンジ。

で、最後はもうひと山あって、ここに「家族の和解」が加わるのです。

以前に観た傑作カンボジア映画の『シアター・プノンペン』でも、(家族の)過去を赦すというのが大きなテーマになっていたのだけど、本作のようなホラー映画でもそのテーマが出てくるとは、ちょっと予想外。本作は心霊ホラーと思わせておいて、人間ドラマで締めくくるという、情感たっぷりの映画でした。

カンボジア人客の反応は?

ただ、この転換が若い観客にとって喜ばしいものであったかというと、微妙なところ。かつて僕もそうであったように、「ホラー映画に湿っぽい人間ドラマは要らないなー」というように受け止められたかもしれない。まぁ、それでも皆それなりに楽しんでいた様子。

実際に、恐怖シーンでは「きゃーっ!!」と悲鳴をあげた客が、直後に「ハハハッ!」と笑っていた。やっぱり怖いものは楽しいのだ。

あと、恋人同士の痴話喧嘩のシーンでみんな爆笑してましたね。なぜか。やっぱり皆そういう下世話な話は好きですよねぇ。

改めて思うけど、カンボジアの若者たちに混じって映画を観るのって楽しいですよ。みんな映画の多少の粗を気にせずに純粋に楽しんでいるので。僕が子どもの頃、毎週のようにテレビの洋画劇場を観ていた頃は何を観ても面白かったもんなー。ああいう瑞々しい感覚が味わえます。そのせいか、僕も最近は映画を観る目が甘くなってきた気がするんですよね。

ただ、本作は技術面はちょっと詰めが甘いです。一瞬フォーカスが外れたり、カットが切り替わると色味が変わっていたり、照明の光量が足りなかったりと。あいにく内容面でも目が肥えた日本の映画ファンには物足りないでしょう。

が、他国の映画の真似事ではなく、ちゃんとカンボジアらしさを描く姿勢は好感が持てましたー。

(画像はVimeoより引用)

僕の評価

5点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

脚本も技術も粗削りな映画ですが、カンボジアらしさは出ています。

どうでも雑感

・カンボジアは9月にお盆があります。本作が公開されたのはまさにお盆の直前。死者に想いを馳せるホラー映画として、完全に狙ったタイミングでの公開だったとしか思えません。内容的にも戦略的にも、まさにお盆ホラーだったわけです。

鑑賞方法

あいにく2020年10月時点で『ចងពៀរ (英題: The Spell)』は動画配信されておりません。

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