『2人のローマ教皇』【光る演出】爺さん2人の対話でも全く退屈しないワケ

映画『2人のローマ教皇』の一場面 ドラマ
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聖職者ふたりの対話?うわ、興味ね〜。 と思った人にこそ観てほしい一本です。 

かく言う僕も、キリスト教を信仰してませんし、ローマ教皇には1ミリも関心がありませんでした。

ところが本作はめっちゃオモロイ!

タイレンジャー
タイレンジャー

これは僕が知る限りでNetflix史上最高傑作ではないでしょうか。

作品概要

2019年製作/125分/G/イギリス・イタリア・アルゼンチン・アメリカ合作
原題:The Two Popes
配給:Netflix
監督:フェルナンド・メイレレス
脚本:アンソニー・マッカーテン
撮影:セザール・シャローン
音楽:ブライス・デスナー
出演:ジョナサン・プライス/アンソニー・ホプキンス/フアン・ミヌヒン/Sidney Cole/Thomas D William ほか

解説

「シティ・オブ・ゴッド」「ナイロビの蜂」のフェルナンド・メイレレス監督がメガホンをとり、2012年に当時のローマ教皇だったベネディクト16世と、翌年に教皇の座を受け継ぐことになるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿の間で行われた対話を描いたNetflixオリジナル映画。カトリック教会の方針に不満を抱くベルゴリオ枢機卿は、ベネディクト教皇に辞任を申し入れる。しかし、スキャンダルに直面して信頼を失っていたベネディクト教皇はそれを受け入れず、ベルゴリオをローマに呼び寄せる。考えのまったく異なる2人だったが、世界に10億人以上の信徒を擁するカトリック教会の未来のため、対話によって理解しあっていく。ベネディクト16世役にアンソニー・ホプキンス、ベルゴリオ役に「天才作家の妻 40年目の真実」のジョナサン・プライス。脚本は「博士と彼女のセオリー」「ボヘミアン・ラプソディ」のアンソニー・マッカーテン。Netflixで2019年12月20日から配信。日本では配信に先立つ12月13日から、一部劇場にて公開。

映画.comより)

予告編

『2人のローマ教皇』予告編 – Netflix

感想・考察(ネタバレなし)

位置関係と画作りの意図

これは組織におけるリーダー論でもあるし、世代交代の問題や社会的多様性についての話でもあるので、題材はローマ教皇なれど、実は誰にでも当てはまる話なのです。 

具体的な内容はと言うと、主義も信条も異なり対立するローマ教皇と枢機卿がカトリック教会の未来について対話を重ねるというものです。お爺ちゃん2人の会話劇なのに、笑いと学びと感動とで、飽きさせません。 退屈になりがちな会話劇でも飽きさせないのは、とにかく演出にメリハリが効いているからです。 

本作では大きく分けて3回の対話が教皇と枢機卿の間でなされます。その中で注目すべきは「2人の位置関係」と「画作りの意図」です。

対話① 庭園にて

会話劇が短調にならないように、2人が座ったり歩いたりを繰り返すことで画に変化をつけています(お知らせ機能付きの万歩計が小道具としてアクセントに)。 この最初の対話でメインの話題は2人の主義や信条の違い。よって「対立」を表現するために、互いが真正面から向かい合う構図が印象的です。

映画『2人のローマ教皇』の一場面

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位置関係を矢印で表すなら「→←」ですね。

さらに、ふたりの議論が白熱すると、顔の大写しを交互に見せて対立感を強調しています。自分の主張は決して曲げない、相手には一歩も譲らないぞ、という強い意志を感じさせる顔面アップの鍔迫り合い。相手の意志が入り込む隙の無い画です。

映画『2人のローマ教皇』の一場面

IMDbより)

映画『2人のローマ教皇』の一場面

IMDbより)

そのほかにドローン撮影による広い俯瞰の画を見せたり、無造作な手持ちカメラで緊迫感を醸し出したり、とカメラワークの引き出しも実に多彩ですね。 結局、この最初の対話は水と油のような両者が決裂するところで終わります。

対話② 居間にて

気まずい沈黙から始まる2度めの対話は、打って変わって雪解けムードです。しばしの沈黙でタメを作ってから話し始める緩急がいいですね〜。 

夕食の後のくつろぎの時間ということもあり、互いのパーソナルな部分に踏み込む話題がメインになります。教皇と枢機卿という互いの立場は置いておいて、1人の聖職者として、1人の人間として自らの姿を曝け出すことで2人の心の距離が近くなります。 

「→←」だった2人の位置関係もこのように「↓←」または「↘︎↙︎」のようになっています。

映画『2人のローマ教皇』の一場面

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また、ここから2人の顔のアップの撮り方にも変化が生じています。対話①では本人の顔以外は背景しか映っていないどアップの印象が強下かったのですが、ここでは相手の姿も相互に画面上に収められています。

映画『2人のローマ教皇』の一場面

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人物Aの後ろ姿ごしに人物Bのアップをとらえるというものです。

つまり、カメラが切り替わっても常にツーショットの状態です。2人の心の距離が近くなった分、自分のテリトリーの中に相手が入り込むのを互いに許容していることを表現するかのような演出意図を感じさせます。

この構図は対話①でもいくらか見られましたが、ここではより意味を持った構図として効いています。 

対話③ 礼拝堂にて

舞台はバチカンの礼拝堂。話題は教皇の辞任の意思表明、枢機卿が罪を告白。 最初は対立していた2人が遂に横並びになりました。方向性がぶつかり合う「→←」ではなく、同じ方向を向く「↓↓」の位置関係です。

映画『2人のローマ教皇』の一場面

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ここでは教皇が枢機卿にポジションを譲る話になるので、カトリックの未来についてという重大なテーマです。2人は同じ方向(未来)を向いて話しているという意味合いなのでしょうね。 また、堂内の内装や壁画をカメラに収めるために2人の姿が極端に小さく映るというのも対話③の特徴です。

映画『2人のローマ教皇』の一場面

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枢機卿は「自分は教皇にはなれない」と拒むことから、その責任の重大さを表現する画作りのような気がします。ローマ教皇という重大な職務と、ちっぽけな自分、という対比ですね。

…と、このように、会話劇でもこんなにも多様かつ分かりやすい演出があるのかと、たいへん感銘を受けました。主演2人の演技はもちろん素晴らしいですが、それ以上に演出が光る一本だと思います。

監督はフェルナンド・メイレレス、撮影監督はセザール・シャローン。あの超傑作『シティ・オブ・ゴッド』のふたりです。さすが。

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

人間がもつ普遍的な苦悩や罪などについて、重くなりすぎることなく、時にチャーミングに描いているから観やすいのですね。演出もそうですけど、こういうバランス感覚は本当に優れた映画だと思いますね。

どうでも雑感

・冷静に考えれば、話の骨格としてはよくあるパターンなんですよね。主義や信条が異なる水と油のような2人が対立しながらも打ち解けていくといのが。ローマ教皇の話にそのパターンを持って来たのと、ユーモアとドラマのバランスが良かったことでいい仕上がりになったと思います。

鑑賞方法

『2人のローマ教皇』はネットフリックスにて独占配信中です。

※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

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