『彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』【童貞軍団】男子校の修学旅行?

映画『彼らは生きていた』の一場面 ドラマ
(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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カラー映像で蘇る、第一次世界大戦。 

戦時中の記録映像にデジタルで修復、着色を施し、効果音を追加、退役軍人たちのインタビュー音声と共に再構築したドキュメンタリー。「どこか遠くの出来事」であった100年前の大戦が現代にリアルに蘇る。


タイレンジャー
タイレンジャー

これはイイ映画でしたね~!10代の少年たちの戦争に対する向き合い方が非常にリアルで興味深いです。

作品概要

2018年製作/99分/R15+/イギリス
原題:They Shall Not Grow Old
配給:アンプラグド
監督:ピーター・ジャクソン
製作:ピーター・ジャクソン/クレア・オルセン
編集:ジャベツ・オルセン
音楽:デビッド・ドナルドソン/ジャネット・ロディック/スティーブ・ローシュ

「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督が、第1次世界大戦の記録映像を再構築して製作したドキュメンタリー。第1次世界大戦の終戦から100年を迎えた2018年に、イギリスで行われた芸術プログラム「14-18NOW」と帝国戦争博物館の共同制作により、帝国戦争博物館に保存されていた記録映像を再構築して1本のドキュメンタリー映画として完成。2200時間以上あるモノクロ、無音、経年劣化が激しく不鮮明だった100年前の記録映像にを修復・着色するなどし、BBCが保有していた退役軍人たちのインタビューなどから、音声や効果音も追加した。過酷な戦場風景のほか、食事や休息などを取る日常の兵士たちの姿も写し出し、死と隣り合わせの戦場の中で生きた人々の人間性を浮かび上がらせていく。

映画.comより)

予告編

ピーター・ジャクソン監督『彼らは生きていた』予告編

感想・考察(ネタバレなし)

戦争の第一犠牲者はイノセンスだ

映画『プラトーン』の宣伝コピー

 そんな言葉をふと思い出したのが本作。 

まず何よりも驚いたのが英国の志願兵の若さ!19歳以上が志願兵の資格を有するという規定を無視して、15〜18歳のガキんちょが続々と入隊していくではありませんか。

年齢を偽るか、偽らされて。 サッカーボールを蹴って遊んでたガキ軍団が「いっちょ、戦争さ行ってみっべ」と軽〜い気持ちでアッサリ入隊してしまうのです。周囲の大人も「おめだち、戦(いくさ)にでねが」とハッパをかける異常な社会の中にいます。 

まるで部活動の夏季合宿のような調子で軍事訓練を6週間で終え、最前線へ派遣される童貞軍団。 

素晴らしいなと思ったのが、最前線の兵士たちの衣食住をはじめとするディテールが明らかにされること。 軍服は何枚が支給されて、食事は朝はアレ食べて夜はコレで、トイレはこんな感じで、寝る時はこう、てな具合で詳しく説明してくれるので、観る側としては1日体験入隊したようなリアルな感触を掴めます。 

もちろん、不衛生、物資不足、栄養失調な環境なので、これを見せされたらそのまま入隊したい人などいないでしょう。戦場の汚さをしっかり描いたことはグッジョブ! で、そんな劣悪環境の中でガキ軍団はさぞかしゲンナリしてるかと思いきや… 

映画『彼らは生きていた』の一場面

(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

みんなイイ顔をしとる…。 

本作が記録映像を修復・着色したことによる効果はテキメンで、兵士ひとりひとりの顔が表情が鮮明に浮かび上がっているのです。 元のカクカクしたモノクロ映像では「その他大勢」でしかなかった彼ら。しかしここでは、ひとりひとりの個性が見えてくるし、彼らが歩んできたそれぞれの背景すら想起させるような感すらあります。 

ナンバーガールの向井秀徳がどこかの本で

黒澤明の映画の登場人物はみんなイイ顔をしている。主人公も脇役も、侍も農民も、二枚目もブサイクも、みなイイ顔をしている

向井秀徳(ナンバーガール)

と書いていたのが印象的だったのですが、それに近い感じが本作にはあります。 

死と隣り合わせの戦場にてこんな生き生きとした顔を見せられると、これが戦場ではなくまるで男子校の修学旅行のように見えてくるから不思議です。 そう、皆が生き生きとした顔を見せるからこそ、心揺さぶられる思いがあります。ここは戦場なのに…。 

ずっと修学旅行みたいな調子で終わるのかな?なんて思っていたところで、さすが本作は後半でキュッと締めてきますね。後半は突撃の場面を写実的に再現しています。手足は吹っ飛び、飛び出した眼球がドクドクと脈打つ世界です。 

終戦を迎えた時の兵士の様子もまた非常にリアル。終戦を祝福するお祭り騒ぎになるのかと思いきや、「誰も勝敗に興味がなかった」と。「なんもすっごどねな」「故郷(くに)さ帰るべ」「んだんだ」と。 

多感な10代を戦場で過ごした彼らは何を得て帰ってきたのでしょうか? 終戦後の彼らは英雄でもなく、勝利の立役者でもなく、ただただ報われない現実に引き戻せられます。結局、戦場で過ごした時間が無為であったことを痛感させられる締めくくりでした。 

「19歳じゃ死を目前にしても振り返るほどの人生がない」という言葉が頭から離れません。

僕の評価

7点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

第一次世界大戦からちょうど100年ですからね。これは『1917 命をかけた伝令』よりも意義深い映画だと思います。

どうでも雑感

・入隊時は童貞だった少年たちが、戦場の合間に娼館に通って立派な「素人童貞」へと成り上がっていく過程は笑えましたね。

・あと、青空トイレに落下して・・・のエピソードには戦慄を覚えました笑。

鑑賞方法

『彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』はアマゾン・プライム、ビデオマーケットにて配信中です。

※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

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