2020年、『地獄の黙示録 ファイナルカット』がIMAXにて上映されました。
数年前に東京は高田馬場の名画座でオリジナル版のリバイバル上映を観ましたが、DVDでは味わい得ない映像の美しさに酔いしれる至福の時間を過ごしたものです。IMAXはもっとすごいんだろうなぁ…と。
僕は2018年からカンボジア在住なのですが、無意識レベルでこの大傑作映画の影響もあるのだと思います。

そして、父の解説なくして本作のことを理解することはできなかったとも思っています。
作品概要
1979年製作/147分/アメリカ
原題:Apocalypse Now
配給:boid
監督:フランシス・フォード・コッポラ
製作:フレッド・ルース/グレイ・フレデリクソン/トム・スターンバーグ/フランシス・フォード・コッポラ
脚本:ジョン・ミリアス/フランシス・フォード・コッポラ
撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
音楽:カーマイン・コッポラ/フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド/マーティン・シーン/デニス・ホッパー/ロバート・デュヴァル/フレデリック・フォレスト/アルバート・ホールサム・ボトムズ/ローレンス・フィッシュバーン/G・D・スプラドリン/ハリソン・フォード ほか
「ゴッドファーザー」シリーズで世界的成功を収めたフランシス・フォード・コッポラ監督が、1979年に発表した傑作戦争映画。ジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」を原作に、舞台をベトナム戦争下のジャングルに移して戦争の狂気を描き、第32回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞。過酷で困難を極めた撮影時のエピソードは伝説的であり、その過程はドキュメンタリー「ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録」(91)で描かれている。また、22年後の2001年には、コッポラ自らの再編集で未公開シーンを追加し、50分近く長い「地獄の黙示録 特別完全版」も製作・公開された。サイゴンのホテルに滞在していたアメリカ陸軍のウィラード大尉は、軍上層部からカーツ大佐の暗殺を命じられる。カーツ大佐は任務で訪れたカンボジアのジャングル奥地で勝手に自らの王国を築きあげ、軍から危険人物とみなされていた。ウィラード大尉は部下たちを連れ、哨戒艇で川をさかのぼってカーツ大佐の王国を目指すが、その途中で戦争がもたらした異様な光景を次々と目撃する。日本初公開は80年。2016年にデジタルリマスター版でリバイバル公開される。
(映画.comより)
予告編
感想・考察(ネタバレなし)
僕が本作を初めて観たのは忘れもしない中学一年生の時。父と一緒に自宅でVHSで鑑賞しました。
米国映画が好きな父にとっての映画ベストワンは『ゴッドファーザー』。僕が塾に行こうとしているところを呼び止められ、「塾よりもゴッドファーザーだろ」と半強制的に観せられました。
「この後、馬の首が出てくるからそこまでは絶対に観ろ」と。
アアーーーーッ!!!
父は満面の笑みで「どうだ、これがマフィアのやり方だ」と言ったことは僕にとって生涯忘れえぬ映画体験となりました。
時を同じくして母から薦められた『イージー・ライダー』の影響もあって、当時の僕は70年代のアメリカン・ニューシネマにハマっていきました。
その流れで観たのが『地獄の黙示録』だったのです。父と一緒に観た映画の中で最も印象深く、僕の「映画を見る目」が養われた一本です。
ベトナム戦争と言えば『プラトーン』くらいの知識しかなかった僕が1人で本作を観ても理解不能だったと思いますが、父はベトナム戦争の背景から、本作の意図までを横で説明をしてくれました。
父「なぜ米国はベトナムに勝てなかったと思う?」
僕「ベトコンが強かったから、かな?」
父「それもあるが、最大の理由は自国民の支持を得られなかったことだ。大義のない戦争だったんだよ」
冒頭、戦場が恋しいがサイゴンで燻るウィラードの姿。
父「非常にリアルだ。麻薬と同じで戦場中毒になってしまう人間も多かった。ウィラードの台詞は実際にそうなった人間の言葉に限りなく近い」
そしておもむろに昔話を語り始める父。
父「俺が米国に留学していた頃、仲良くなった奴がいたが、そいつは20歳の時にベトナムで戦死してしまった。いつもクルマで遊びに連れて行ってくれて、いい奴だったのになぁ」
僕は返す言葉が見つからない。
キルゴア中佐が登場。
(C)2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
父「いい男だよなぁ。サーフィンがしたいから戦争をしてるんだって。わっはっはっ!」
→父の言葉が本気のものであるか当時は分かりかねましたが、今観るとやっぱりここは笑うシーンですよねぇ。
父「こういう男を格好いいと思わないか?」
→これまた返答に困る問いかけ。キルゴア中佐は娯楽的に殺人を犯す狂人なのですが、キャラクターとして魅力的であることも事実です。
途中から合流した母はドン引き。
父「よく見ろ、ナパームの着弾は必見だぞ。素晴らしい迫力だ!」
静寂のジャングルの中から虎が登場。
父「わっはっはっ!これは米兵たち自身が一体何と戦っているのか分かっていないことを象徴している。米兵たちは戦う目的を見出せなかったんだよ」
半裸の姉ちゃんたちが踊って、米兵たちが発情。
父「わっはっはっ!やはりここでも米兵たちは目的を見失っている」
→僕は笑っていいのかどうか分からず。
ここまで父は大喜び。しかし、カンボジア領内のカーツ大佐の王国に到着してからは一転、父は批判モードに。
父「半裸の白塗りとは現地人を土人扱いしている。米国は本質的には人種平等の国などではない。偏見と差別の国だ」
父「ベトナム戦争の狂気をリアルに捉えた前半に比べると後半は観念的すぎる。コッポラももまたカーツ大佐の王国に近づくにつれて自分を見失っていったのだ」
カーツ大佐による生首のお届け
母「うぇぇ、気持ちわるい」
父「前半のリアルな狂気に比べると、カーツ大佐の狂気はいかにも陳腐なものだ。あまりにベトナム戦争の現実と乖離している」
ウィラードが任務遂行。ドアーズの”The End”が最高潮に達する。
父「やはり音楽が素晴らしい」
父「前半100点!後半0点!」
父「これは壮大な失敗作だ!でも素晴らしい!わっはっはっ!」
称賛と批判が混在する父のコメントの数々でしたが、不思議なことに批判する時も父は嬉しそうな顔をしていました。
これが評価する/しないを超越した「愛」なのだなぁ、と後に思ったものです。父はボロクソに言いながらも、本作が持つ欠点や混沌がもたらしたアンバランスさを楽しんでいたのだと思います。
そう、本作は素晴らしすぎる点とダメダメな点が混在しており、前半の狂ったアゲアゲぶりと後半の内省的なダウナー感という調和のない構成で成り立っています。
しかし、その混沌としていてキレイにまとまっていない様子こそが本作の魅力だと考えます。僕の中でストンと納得がいく言葉がありまして、これらは本作にも当てはまるのではないでしょうか。
「芸術は綺麗であってはいけない。うまくあってはいけない。心地よくあってはいけない。それが根本原則だ」- 岡本太郎
「美は乱調にあり」- 瀬戸内寂聴
父が本作に対して抱いた思いもこういうことだったんだろうなと考えます。
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また、今思えば僕が東南アジアに憧れを抱いたのは本作の影響が大きいかもしれません。
カンボジアに移住することになるとは当時は1ミリたりとも想像できませんでしたが。
父もまた僕の結婚式への出席の為に「カーツ大佐の王国」に足を運ぶことになるとは思ってもいなかったでしょうね。
初めてのカンボジアに滞在する父に「地獄の黙示録とはぜんぜん違うでしょ?」と聞いてみようと思いましたがやめました。
「あんな映画は虚構に過ぎない」と笑い飛ばされそうな気がしたからです。
僕の評価
10点/10点

狂気についての映画ではなく、この映画そのものが狂気ですね。
どうでも雑感
・2002年に公開された「特別完全版」は好きではありません。エロスが付加されたのは良かったのですが、追加されたのは蛇足なエピソードばかりでした。
・また、個人的には最後のエンドクレジットはカーツ大佐の王国が猛爆撃を受けて崩壊していく様を異様に捉えたバージョンが至高だと思っています。例え、コッポラの不本意だとしても。
・当時中学1年生だった僕は本作の影響でドアーズとジミ・ヘンドリックスを聴くようになりました。
鑑賞方法
『地獄の黙示録(オリジナル版)』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。
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また、『地獄の黙示録 ファイナル・カット』は下記にて配信中です。
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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。
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