『シルバー・グローブ/銀の惑星』感想・考察:【難解】僕はこれをプログレと呼ぶことにした

映画『シルバー・グローブ』の一場面 SF
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大傑作『ポゼッション』(1981)のアンジェイ・ズラウスキー監督による「未完の」哲学SF大作です。

異様すぎるヴィジュアル面は群を抜いて素晴らしいものがありますが、話がよく分かりません。

本作が難解になってしまった事情とは・・・?

タイレンジャー
タイレンジャー

これはぶっ飛ぶ映画でした!

作品概要

1987年製作/160分/ポーランド
原題:Na srebrnym globie | On The Silver Globe
監督:アンジェイ・ズラウスキー
原作:イェジー・ズラウスキー
脚本:アンジェイ・ズラウスキー/イェジー・ズラウスキー
撮影:アンジェイ・ヤロシェヴィッチ
音楽:アンジェイ・コジンスキー
出演:アンジェイ・セヴェリン/クリスティナ・ヤンダ/ラジーナ・ディラグ/イエルジー・トレラ ほか

■あらすじ
宇宙飛行士たちがとある惑星に不時着。
環境が地球と酷似したその惑星で彼らは子どもを産み、子孫を増やしていく。
しかしその子孫は宇宙飛行士たちの地球文明を受け入れようとはせず、独自の原始的な文明を築いていく。
やがて子孫たちは海の向こうの大陸にて凶暴な鳥人たちと対立し、危機を迎える。
その状況を知った地球の学者はその惑星へ降り立つが、予言に登場する救世主として子孫たちに崇められることに。

予告編

On The Silver Globe (Trailer) | Austin Film Society

感想・考察(ネタバレなし)

こりゃあプログレ映画ですね。

プログレとはピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾンなどの前衛的で長大な作風のバンドを表すロック用語です。

「プログレッシヴ(先進的)・ロック」の略でプログレ、ですね。

映画にもプログレという概念があるなら、本作のような作品のことだと思うのです。

タルコフスキーの『ストーカー』、ホドロフスキーの『エル・トポ』、リンチの『デューン/砂の惑星』あたりにも通ずると言うと分かりやすいでしょーか。難解で哲学的な内容、特異なヴィジュアルという点が共通しています。

ハッキリ言って本作の物語は全然理解できません。

東欧の俳優はみな地味で見分けがつきにくいというのは僕の集中力が足りないせいだと思いますが、物語が分かりにくいのにはいくつか理由があります。

まず、本作は未完成作品です。1977年に撮影が行われましたが、共産主義政権下にあった当時のポーランド政府によって強制的に中止に追いやられました。理由は内容が反共産主義的だから?その後、政府が寛容になってきたため、1988年にようやく完成したという経緯があります。

ただ、撮影フィルムの2割が消失してしまった為、不足のシーンは監督自身がナレーションで説明することで補っています。で、この淡々としたナレーションの内容がイメージしづらく、どうしても話の流れは理解しにくくなっています。

ま、全フィルムが再現されたとしても難解なことに変わりはないと思いますが。。。

また、登場人物たちの台詞も難解です。何やら哲学めいたことをわめき散らすのが延々と続きます。それも舞台演劇っぽい過剰なテンションで。「われ!おもうっ!ゆえにぃ・・・われありぃぃぃい!!!」みたいな。青みがかった画面は寒々としているのに、役者の演技は暑苦しいことこの上ないです。タルコフスキー映画をヒステリックにした感じとも言えるでしょう。またはアングラ演劇っぽい、とも言うのかな(アングラ演劇は観たことないけど・・・ははは)。

まぁ、難しいことの一番の理由は意図的な説明不足だと思います。

哲学的とも思えるSF創生神話という難しい題材のわりに、舞台や人物、関係性の説明が少ない。

『2001年宇宙の旅』が説明的なナレーションを敢えて外したことで難解さと崇高さが増したのと似ている気がします。

プログレ映画の常套手段というわけか。。。

監督はポーランド人のアンジェイ・ズラウスキー。僕は彼の作品では『ポゼッション』(1981)が死ぬほど好きなんですが、本作を観た後では『ポゼッション』ですら単純明快な映画のように思えてきます。いや、もちろん『ポゼッション』みたいな”分かりやすい難解さ”のほうが好ましいんですが。

もともと説明的ではない、直感的・観念的な映画を撮るズラウスキーがよりによって哲学風SFという難しいものに手を出した結果、ますます分からない映画になってしまったというのが本作ではないでしょうか。

しかし、本作を作り上げる途方もない狂気が画面の隅々にまで充満しているのは確かです。

見たこともないような刺激的な画、這いずり回るような手持ちカメラ、禍々しくも意外性のある音楽。
観る者が終始唖然としてしまうような狂信的なパワーに満ち溢れた映画です。

難解・長大・哲学的であることはある程度スルーして、ヴィジュアルとサウンドに身を委ねれば至福の時間になることでしょう。

難しいよぉ、観るのがしんどいよぉ、でもスゴイ映画だというのは感覚的に分かるんだよね。。。

というのが僕にとってのプログレ映画です。

(画像はIMDbより引用)

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

作り手の情念が画面のなかに充満しているかのような凄味のある映画です。前衛的な作品を好む人はぜひ。

どうでも雑感

・ホドロフスキーの『エル・トポ』がそうであるように、本作も宗教メタファー映画のような気がします。でもホドロフスキーよりも好みです。

鑑賞方法

『シルバー・グローブ/銀の惑星』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

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