『ザ・ファイブ・ブラッズ』【暑苦爺】こんなベトナム旅行はイヤだ

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の一場面 ドラマ
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『ブラック・クランズマン』でカムバックを遂げたスパイク・リー監督の最新作にして、ベトナム戦争を題材とした「黒人のための映画」です。

いやぁ、それにしてもスパイク・リーの映画は相変わらず暑苦しいなぁ、という・・・。

タイレンジャー
タイレンジャー

話は僕と父とのベトナム旅行計画から始めましょうかね。

作品概要

2020年製作/154分/アメリカ
原題:Da 5 Bloods
監督:スパイク・リー
脚本:ダニー・ビルソン/ポール・デ・メオ/ケビン・ウィルモット/スパイク・リー
撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル
音楽:テレンス・ブランチャード
挿入歌:マーヴィン・ゲイ
出演:チャドウィック・ボーズマン/ジャン・レノ/ポール・ウォルター・ハウザー/ジョナサン・メイジャーズ/ジャスパー・パーッコネン/デルロイ・リンドー/ベロニカ・グゥ/メラニー・ティエリー/クラーク・ピータース/イザイア・ウィットロック・Jr ほか

「ブラック・クランズマン」のスパイク・リー監督が、仲間の遺骨とジャングルに隠した金塊を探すためベトナムを再訪した4人の黒人退役軍人を主人公に撮りあげたNetflixオリジナル映画。現在の旅の行方と戦時中の回想シーンを行き来しながら、実際の記録映像や写真を全編に散りばめ、黒人たちの視点からベトナム戦争とアメリカの闇を描き出す。かつてベトナムでともに戦ったポール、エディ、オーティス、メルヴィンの4人の退役軍人は、部隊の隊長だった盟友ノーマンの遺骨を回収するため、数十年ぶりにベトナムにやって来る。実は彼らには、ノーマンの遺体付近に隠した大量の金塊を探すというもう1つの目的があった。勝手に付いてきたポールの息子デヴィッドも加わり、ジャングルの奥地へと進んでいく彼らだったが……。「マルコムX」のデルロイ・リンドーがPTSDに苦しむポール役を熱演。共演に「ブラックパンサー」のチャドウィック・ボーズマン、「レオン」のジャン・レノ。Netflixで2020年6月12日から配信。

映画.comより)

予告編

『ザ・ファイブ・ブラッズ』予告編 – Netflix

感想・考察(ネタバレなし)

父の友人が戦死した国、ベトナム

つい3年ほど前まで、僕は父とふたりでベトナム旅行に行くことを真剣に考えていました。

当時は僕が仕事でベトナムに行く機会が多くよく知っていたというのと、親孝行があまりできてないので旅行をプレゼントしたいと思ったのです。

また、父にとってベトナムという国が特別な意味合いを持った国であることも僕は知っていました。

父は1960年代に米国に留学をした経験があり、その時にお世話になった米国人の友人をベトナム戦争で亡くしていたのでした。そのこともあって、単にリアルタイムで経験していたというだけでなく、父はベトナム戦争というものを日本人のみならず米国人の視点でも捉えていたのです。

そんな父の影響もあって僕自身、ベトナム戦争に対する関心が強いほうです。当時を良く知る人と一緒に「その場」を訪れる機会なんてそうそうないだろう、という思いもありました。なので、ホーチミンシティ(旧サイゴン)の戦争証跡博物館や統一会堂、郊外のクチトンネルといった「戦跡めぐりツアー」を計画した次第です。あとは普通に観光できれば良いか、と。

僕「てなわけで、こんな感じのベトナム旅行はどう?」

父「いや、俺がベトナムの中で一番行きたいのはケサンだな」

僕「けさん?」

父「ケサンは戦争時の米軍の重要拠点だった。激しい戦闘があった場所で、俺の友人が命を落とした場所でもある

これはガイドブックにも載っていない正真正銘の戦跡。予想外の父の一言で旅行は「慰霊ツアー」の様相を呈してきたのです。同時に父の思いを察するに「これはぜひ連れて行かねば」と思ったものです。

ですが結局、互いに忙しくて時間を作れなかったこともあり、父と二人でのベトナム旅行は今もなお実現に至っていません。今となっては新型コロナウイルスのこともあり、実現はさらに遠のいてしまいました。

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の一場面

IMDbより)

僕にとってのヴァーチャル慰霊ツアー

Netflixでボンヤリと観はじめた本作ですが、徐々に、僕と父のベトナム旅行を重ね合わせて観るようになっていきました。

本作は今やすっかり初老となったベトナム戦争帰還兵4人が、戦死した仲間の遺骨と隠した金塊を探すために再びベトナムを訪れるというお話です。そのうちの1人は「ベトナム戦争を知らない」息子と一緒です。この親子がちょうど僕と父と同年代くらいと思われ、父と一緒にベトナムを訪れたらこんな感じなのかな、と思いを巡らせながら鑑賞しました。

コロナの影響で自由に海外の往来が難しくなった今、オンラインツアーなる「仮想旅行」が販売されるようになりましたが、本作は僕にとってはまさに仮想ベトナム慰霊ツアーだったのです。

戦時中からあったコロニアル建築のホテルに宿泊し、流線形の高層ビルがそびえたつ現在のホーチミン市を眺め、のんびりとメコン川クルーズをする(この場面で『ワルキューレの騎行』が流れるのは何とも皮肉であった)・・・といった展開で、「そうそう、初老の父と行くならこんな感じだよね~」と。

本作では4人の黒人の爺さんたちが同窓会のように再会を喜び、昔話とジョークの応酬でノスタルジックな気分を味わう展開がしばらく続くのですが、これが何とも微笑ましく、かなりの傑作なのではとの予感さえありました。

それでいて、スパイク・リーらしく、「ベトナム戦争に従軍した黒人も多かったが、黒人にとって真の敵は米国そのものである」という怒りの告発がたびたび挿入されるので、単にノスタルジックなだけではない甘辛ミックス的なバランスも良かったと思います。

本来、旅行は楽しくあるべきですが、僕は頭をハンマーで殴られるような衝撃も同時に求めてしまいます。それは世代や環境の面から経験し得なかった「悲惨なもの」を少しでもリアルに学ぶことで埋め合わせたいという思いからです。今回の話で言うところの戦争がまさにそうですね。

本作の前半はそんな僕の要望に応えてくれるかのようあ期待感がありました。しかし、本作は後半から様相が一変します。

映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の一場面

IMDbより)

「団結」から「分断」へ

4人の爺さん(と1人の息子)の珍道中は中盤である事故が発生して以降、何とも殺伐とした血みどろ展開に突入します。この転調が前半とはチグハグな印象になってしまったのは総合的に見て残念だったなーと。

爺さんたちがベトナムに「置き忘れたもの」を取り戻すことで、どこか壊れてしまった心を修復する物語だと思っていたのですが、違ったようです。彼らが招いたものは「分断」だったからです。

戦死した仲間の存在によって団結したはずの彼らが破滅的な展開に陥ってしまうんですよね。これはもうトランプ政権下で国内のあらゆる「分断」が根深くなってしまったことの象徴のように思えます。黒人同士であってもそれぞれの主義・信条は異なり、一枚岩になるのが難しい現状を描いているのではないでしょーか。

爺さんたちの目的は、①仲間の慰霊、②紛失した金塊の回収、という二重性の強いものであって、カネに目がくらんだ者たちが自滅の道を辿ることもまた象徴的ですね。

これはやはり作り手のメッセージが最重要であって、そのぶん物語としてのカタルシスが犠牲になっているわけです。黒人とそのほか米国民を扇動し続けるスパイク・リーの主張は分かりますが、同時にその暑苦しさが作品の娯楽性を損ねてしまったと考えます。

前作『ブラック・クランズマン』の時も思いましたが、主張と創作のバランスがもう少し良くなれば・・・。ちょっと主張が直接的すぎるんですよね。スパイク・リーの暑苦しさとは、これが主な要因かと思われます。

主人公が爺さんたちなだけに、暑苦爺(あつくるじい)映画ですね。

僕の評価

5点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

観る価値の高い映画だと思いますが、後半の暑苦爺な展開には食傷気味になりそうでした。

どうでも雑感

・現代と過去(ベトナム戦争当時)が交互に描かれるのですが、4人の爺さんたちが過去の場面でも若メイクするでもCG処理するでもなく、年老いた姿そのままに登場するのは良かったですね。これは予算の都合でそのようにしたらしいですが、戦死したノーマン(チャドウィック・ボーズマン)は若いのに、ほか4人は爺さんというのが何とも可笑しく物悲しいのです。

・その代わり、過去の場面では画面のアスペクト比が4:3くらいに切り替わります。これも良かった。

・戦時中に現地にベトナム人の愛人をかこっていた爺さんが、その愛人と再会するエピソードはすげえ雑でしたな・・・。娘の存在は無くても良かったかと。

鑑賞方法

『ザ・ファイブ・ブラッズ』はNetflixにて配信中です。

※本ページの情報は2021年1月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

スパイク・リー監督作品

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