『エル ELLE』(2016)【感想・考察】エロ!グロ!ゲス!変わらぬヴァーホーヴェン

映画『エル ELLE』の一場面 ドラマ
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本作はジャンルとしてはレイプ・リベンジものだと思っていましたが、実際はどうなのでしょう?ヴァーホーヴェンはロボコップをキリストに見立てるくらいの男なので、どうやら本作も深読みをする必要がありそうです。

結論としては、女性の逞しさ、男の情けなさを見せつけられる映画でした。 そしてヴァーホーヴェンは良い年のとりかたをしたなぁと。

タイレンジャー
タイレンジャー

冒頭から驚きの展開!

作品概要

原題:Elle
2016年/フランス/131分
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
原作:フィリップ・ディジャン
脚本:フィリップ・ディジャン/デヴィッド・バクスト
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
音楽:アン・ダッドリー
出演:イザベル・ユペール/ローラン・ラフィット/アンヌ・コンシニ/シャルル・ベルリング ほか

「氷の微笑」のポール・バーホーベン監督が「ピアニスト」のイザベル・ユペールを主演に迎え、「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」の原作者フィリップ・ディジャンの小説「oh…」を実写映画化したエロティックサスペンス。ゲーム会社のCEOを務める女性ミシェルは、ある日突然、自宅に侵入してきた覆面男に襲われてしまう。何事もなかったかのように今まで通りの生活を送ろうとするミシェルだったが、襲われた時の記憶がフラッシュバックするようになっていく。犯人が身近にいることに気づいたミシェルはその正体を突き止めようとするが、自分自身に潜んでいた欲望や衝動に突き動かされて思わぬ行動に出る。第74回ゴールデングローブ賞で最優秀主演女優賞と最優秀外国語映画賞を受賞し、第89回アカデミー賞でもイザベル・ユペールが主演女優賞にノミネートされた。

(映画.comより)

予告編

『エル ELLE』 本予告 8月25日(金)公開

感想・考察(ネタバレなし)

ほぼ一貫して女尊男卑

女尊男卑。これはヴァーホーヴェンのほぼ全作品に共通して言える点ではないでしょうか。

ちょっと思い返してみても、男はみな性と暴力に囚われ狂気を抱えた連中ばかりで、可愛いレベルで言っても自己中心的な人物ばかり。人格者は誰1人いなかった気がします。 唯一の例外はロボコップになる前のマーフィーでしょうか。でも彼は人体提供者に過ぎません。 

男は女を、そしてその性を支配することを望み、相手や周りの人間の気持ちを考えず、欲望のままに動き、女に捨てられ、裏切られ、情けない、見苦しい醜体をさらす。 その対象が女ではなく、権力の場合も同様。

それは本作も全く変わってないません。ただ、これまでの大企業の重役、早撃ちアル中の刑事、透明になった研究者、ナチス将校というキャラクター達とは異なり、別居中の夫、ボンクラな息子、隣人というように普通の生活レベルの人物ばかり。 戦時中でもないし、SF的な舞台でなくとも、男の愚かさはいつの時代も変わることがない。 フランスのごく普通の人々という地味な舞台設定だからこそ、ヴァーホーヴェンのこのテーマはより鮮明になったと思います。 

男は女によって冷静ではなくなり、幼児退行する。どうしようもない。そして、本作では女は男に依存することがない。むしろ、主人公の女性は馬鹿な男たちを「受け入れる」。主人公が長年に渡り忌み嫌っていた◯◯でさえも。最後の最後では一時的に受け入れる。

映画『エル』の一場面

(映画.comより)

女神の慈悲

本作について「女性は怖い」と言う男性もいるけど、それは違うと思う。僕たち馬鹿な男に呆れながらも、受け入れて下さる女性をありがたいと思うべき作品ではないでしょうか。

主人公の言動は評価が分かれるポイントですが、彼女は寛容な聖母のイメージなんじゃないかなと思えます。 SFでなくても、戦争でなくても、今の現実が十分に酷い世の中で「でも、人生なんてそんなものでしょう」と笑うのが本作の主人公。 少し違うけど、遠藤周作の「深い河」に登場するインドの女神チャームンダーを思い出しました。

・・・・チャームンダーは墓場に住んでいます。 だから彼女の足もとには鳥についば啄まれたり、ジャッカルに食べられている人間の死体があるでしょ。・・・彼女の乳房はもう老婆のようにしな萎びています。 でもその萎びた乳房から乳を出して、並んでいる子供たちに与えています。 彼女の右足はハンセン氏病のため、ただれているのがわかりますか。 腹部も飢えでへこみにへこみ、しかもそこにはさそり蠍が噛みついているでしょう。 彼女はそんな病苦や痛みに耐えながらも、萎びた乳房から人間に乳を与えているんです。

遠藤周作『深い河』


潔白な聖母マリアというより、凄惨な世界の中で老い、苦しみながらも乳を与える女神のイメージの方が主人公に近いんですよね。

ヴァーホーヴェンは老いたのか?

1938年生まれのこのオランダ人監督は御年82歳になります。

本作を観ると、良い意味で年をとったなと思います。 彼の作品というと、SF、エロ、暴力と派手な作品のイメージ強いです。そのイメージからすると、今回のような小品は「円熟した」とか「新境地を開拓した」と評されがちですが、彼の派手な作品はハリウッドに来てからのもの。 本作はハリウッドに進出する前のオランダ時代の作品に近い印象があります。

かなりぶっ飛んだ内容だが、現代の一般市民の稚拙な恋愛が描かれているのが初期の作品『危険な愛』。派手な舞台設定や特殊な状況抜きに「男ってダメね」をやっている点が本作と同じ。もちろんエログロ描写は一切の遠慮無し。

では、本作はヴァーホーヴェンの原点回帰なのでしょうか?

原点回帰というより、ヴァーホーヴェンが40年間、変わってないだけという気がします。良い意味で!

男は卑しく、現実は暴力と欲望にまみれ、人はメディアに洗脳され、宗教は堕落しているということを長年に渡り描き続けているだけ。全く丸くなる気配がない。何と格好いい男だろう。

本作はジャンルとしてはサスペンスのように言われているけど、実際は誰がレイプ犯であるかという犯人探しが物語の核ではありません。ジャンル的には『アメリカン・ビューティー』のような人間のどうしようもない部分を描くブラックコメディだと思います。これまでのヴァーホーヴェン映画もブラックな笑いに満ちていましたしね。

今回もエログロはちゃんと描かれていますが、その描写自体にはあまり意味がありません。そのせいかあまり外連味が無くて、サラッとしています。

あとはキリスト教批判、メディア批判も相変わらず。

スタイルは変われど、バーホーベン自身は今もなお老いることなく挑発的です。

(画像は映画.comより引用)

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

ブラックコメディであること、ヴァーホーヴェンの作家性というものを念頭に置けばかなり楽しめます!むしろ清々しいくらい。

どうでも雑感

・ヴァーホーヴェンは『スターシップ・トゥルーパーズ』の男女混浴シャワーシーンの撮影の際、自身も全裸になって撮影に臨んだらしい。出演者の羞恥心を緩和するため?
男らしいなぁ。

鑑賞方法

『エル ELLE』はU-NEXTで鑑賞できます。31日間無料トライアルなのでぜひ。
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