独身者は45日以内にパートナーを見つけなければ動物に変えられてしまう、という不条理な物語です。
いかにも『籠の中の乙女』のヨルゴス・ランティモスらしいブラックな風刺の効いた内容になっていますね。
今回はこの「強制婚活合宿」の映画の考察と、僕自身の婚活体験を絡めて書いていきます。

この映画自体が婚活の風刺でもありますからね。
作品概要
2015年製作/118分/R15+/アイルランド・イギリス・ギリシャ・フランス・オランダ・アメリカ合作
原題:The Lobster
配給:ファインフィルムズ
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリップ
撮影:ティミオス・バカタキス
出演:レイチェル・ワイズ/コリン・ファレル/レア・セドゥ/ベン・ウィショー/ジョン・C・ライリー/オリヴィア・コールマン ほか
アカデミー外国語映画賞ノミネート作「籠の中の乙女」で注目を集めたギリシャのヨルゴス・ランティモス監督が、コリン・ファレル、レイチェル・ワイズら豪華キャストを迎えて手がけた、自身初の英語作品。2015年・第68回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。独身者は身柄を確保されてホテルに送り込まれ、そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変えられて森に放たれるという近未来。独り身のデビッドもホテルへと送られるが、そこで狂気の日常を目の当たりにし、ほどなくして独り者たちが隠れ住む森へと逃げ出す。デビッドはそこで恋に落ちるが、それは独り者たちのルールに違反する行為だった。
(映画.comより)
予告編
感想・考察(ネタバレなし)
まずは僕の婚活実体験の話を
数年前の話ですが、僕は婚活バスツアーに参加しました。
カンボジアに移住する前のことで、当時はパートナーが居なかったし、出会いもなかったので期待半分、下世話な好奇心半分で参加してみたのです。
ツアー内容は下記の通りでした。
・東京発着の日帰りバスツアーである
・30代限定など、ツアーによっては年齢制限がある。年齢詐称した場合は乗車できない
・出発時に婚活アドバイザーによる啓蒙スピーチ。ハードルを上げるな、結婚相手を決める為に積極的になろう、と
・車内では一定の時間ごとに席替えを行い、男女ペアで互いに自己紹介を行う
・昼食会場、お花畑などの行楽地ではフリー。意中の相手にアプローチするチャンス
・夕方くらいに好意を持った相手を最大3名までカードに書いて集計。相思相愛ならカップル成立。帰りの車内を隣同士で過ごす
・カップル成立しなかった人は帰りの車内で惨めな時間を過ごす
どうですか、これ。まるで恋愛リアリティ番組みたいじゃないですか。
しかも、その日は満席!リピーターも多い!ルール化された恋愛がこんなにも需要があるとは、と驚いたものです。
その時の僕が個人的に課したノルマは「とりあえずカップル成立」でした。勝手が分からないせいもありますが、そこそこのお相手(失礼)がいたら、決めてしまおうと思ったのです。その後発展するかどうかは別にして。
なぜとりあえずなのかと言うと、帰りの車中で惨めな思いはしたくなかったからです。この場では辱めを受けないように、無理やり恋愛モードになるしかないのですよ。
しかし、その場は歴戦の猛者が集う激戦区。僕はすっかり置いてけぼりを食らい、とりあえず話しやすそうな女性と一緒にいることにしました。その女性は僕よりいくらか年上で地味な人でしたが、何よりも話しやすいので「今日はここが落とし所か」と思い(失礼)、時間を流すことにしました。
その女性と一緒にリンゴ狩りだかなんだかをしていた時です。突然、僕の腕は何者かに引っ張っられて強引に陰まで引きずりこまれました。それはバスに同乗していた婚活アドバイザーのオバちゃんだったのです。
顔が向き合った瞬間、婚活アドバイザーはこんな顔↓で、
(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,
The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.
「アンタ、本気ちゃうやろ?」
と。
「適当に相手に合わせるだけなんて、相手の為にならへん。本当に自分と合う相手を見つけなアカン。自分の願いを叶えるために動きいや。例えばあの娘なんかどないや?さっきからずっと1人でおるで。歳も近そうなアンタとはお似合いとちゃうんか」
言われるがままに、少し若いほうの女性に声をかける僕…。(婚活バスツアーこえええ!)と思いながら。ルール化された恋愛システムの中で僕は右往左往していたのです。
(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,
The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.
婚活が制度化しちゃうディストピア映画
前置きにしては長過ぎましたが、本作の前半部分はまさに僕が婚活バスツアーで体験したことに似ていて、大変愉快に観ることができました。
恋愛〜婚活が制度化されることの滑稽さがブラックに描かれていて笑えます。
婚活パーティーや婚活ツアーなど仕組み化された恋愛媒体の需要が高いこと、一方で頑なにおひとり様を貫こうとする人の多さ、といった社会の風刺として本作を観ることができます。
ただそれだけでなく「相手に合わせることが本当の愛だろうか」というマトモなテーマも根底にあります。この点は婚活アドバイザーのオバちゃんがズバリ本質的なことを話した通りなんですね。
あと、ヨルゴス・ランティモス監督の前作『籠の中の乙女』もそうだったのですが、
本当に望むものを手に入れる為には痛〜い代償を払う必要がある(と思い込む)
というのが本作にも共通していますね。
「ほんとはそんな代償なんか要らないんだけどね、ケケケッ」と曲者監督の声が聞こえてきそうです。どんなメッセージなのかはよく分かりませんが、皮肉スパイスがピリピリ効いているのは確かです。んもう、ランティモスのいけずぅ〜。
ま、前半は面白かったんですが、森の中に潜む「おひとり様ゲリラ」がメインになる後半はかなり眠かったですー。前半の異常性に比べるとちょっと弱いんですよね。理不尽な信仰宗教みたいで面白そうなんですが、もっと欺瞞のディテールが観たかったなぁと。
例えば、前半の強制婚活合宿のホテルでは、オナニー禁止だとか、メイドがお尻でグリグリと性感マッサージをしてくれる(勃起したら終了)などの設定が面白かったんですが、そういうのが後半にもあったら良かったなということです。
強制婚活合宿もディストピア、おひとり様ゲリラもディストピア。どっちも嫌だよね。じゃあ、貴方はどうするの?と観る者に問う映画の精神は好きです。
ちなみに僕が婚活バスツアーで知り合った少し年下の女性とはその後一回だけ食事に行ったっきり会ってません。と言うのも、僕が東京でカンボジア語を勉強していた繋がりで嫁(カンボジア人)と知り合えたからです。いい出会いは自分の好きなことの延長線上にありました。
変に相手に合わせるような出会いをしなくて良かったなぁと思っています。
僕の評価
6点/10点

後半も前半のようなブラックユーモアを貫いてほしかったなぁ、と。どうも後半は話に停滞感があります。
どうでも雑感
・オチは『籠の中の乙女』と同じで画面上は何も起きないけど、示唆に富んでいるとうのが面白かったです。無口だけど雄弁、みたいな。
・「同調圧力」も本作を語るキーワードですね。日本人が無意識にやっちゃうやつなので、日本人にとっては本作は刺さる部分が多いんじゃないかなと思います。
鑑賞方法
『ロブスター』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。
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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。
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