『ノクターナル・アニマルズ』感想・考察:女々しくて、復讐!(トム・フォードの意図を邪推する)

映画『ノクターナル・アニマルズ』の一場面 サスペンス
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おそらく誰もが「へっ?」と思うラストについて少し語ってみます。
トム・フォード監督が描く本作の人間像はけっこう辛辣なものがあり、僕は好きでした。
監督の意図することをアレコレ邪推するのが楽しい映画です。

タイレンジャー
タイレンジャー

ある程度、人生経験を積んだ人には感じるものがあるのでは?

作品概要

原題:Nocturnal Animals
2016年/アメリカ/116分
監督:トム・フォード
原作:オースティン・ライト
脚本:トム・フォード
撮影:シーマス・マッガーベイ
音楽:アベル・コジェニオウスキ
出演:エイミー・アダムス/ジェイク・ギレンホール/マイケル・シャノン/アーロン・テイラー・ジョンソン ほか

世界的ファッションデザイナーのトム・フォードが、2009年の「シングルマン」以来7年ぶりに手がけた映画監督第2作。米作家オースティン・ライトが1993年に発表した小説「ミステリ原稿」を映画化したサスペンスドラマで、エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソンら豪華キャストが出演。アートディーラーとして成功を収めているものの、夫との関係がうまくいかないスーザン。ある日、そんな彼女のもとに、元夫のエドワードから謎めいた小説の原稿が送られてくる。原稿を読んだスーザンは、そこに書かれた不穏な物語に次第に不安を覚えていくが……。エイミー・アダムスが主人公スーザンに扮し、元夫役をジェイク・ギレンホールが演じる。

(映画.comより)

予告編

『ノクターナル・アニマルズ』予告

感想・考察(ネタバレなし)

「拍子抜け」な結末

「えっ?これで終わりなの?」という結末で、拍子抜けというのが見終わった直後の感想。 

映画全体は面白かった。でも、最後の最後で起こるであろう事が起きないままブツッと締めくくられたので、観客を(主人公も)突き離すような終わり方に感じられた。 つい、「あなたは私を散々ソノ気にさせといて!んもう!」という気分になる(観た人は分かると思います)。 

でも、なぜ起こりうることが起きないまま終わったのか、またそれは何を意味するのかと、考えずにはいられない。いつまでも余韻が残る終わり方でもある。そう、スッキリはしないけど、余韻に長く浸っていられるのだ。なので、考えれば考えるほど、深みのある終わり方だったなぁと考えを改めることになる。 

拍子抜けに感じられるのは、主人公の目線で観る(感情移入する)ことができていた証だし、今となってはこれ以外の結末は考えられない。 この映画の結末と似たような体験をした人は多いと思う。「あーあ、自分は何に期待してたんだろう。馬鹿だなぁ」と自己嫌悪になるやつだ。恋愛や結婚で苦い経験をした人ほど心に刺さると思う。ある程度、歳を重ねた世代に。 

エイミー・アダムス演じる主人公が「期待」しちゃうのも彼女の日常が空虚で欲求不満だからだ。旦那は浮気してるのがバレバレ。仕事の顧客は品が無い俗物ばかり。前の夫であるジェイク・ギレンホールから久しぶりに連絡があれば、償いの気持ちと、その先に微かな期待が生まれる。やがて期待の中には下心も芽生えてくる。

映画『ノクターナル・アニマルズ』の一場面

(映画.comより)

浮気されたら復讐を

本作に少し似ているのは『アイズ・ワイド・シャット』だ。 

 主人公のトム・クルーズは妻が浮気をしていたことに腹を立て、「ヨッシャ!自分も浮気してやる」とヤル気満々で夜の街を徘徊するも、全ては拒絶され、自分の愚かさに絶望するという話。 これの男と女の立場を置き換えたのが「ノクターナル〜」だという見方もできる。

エイミー・アダムスが「旦那が浮気するなら、私だって浮気しちゃうわよっ!」と。「浮気返し」という復讐はなんとも幼稚なものだけど。 しかし、ジェイク・ギレンホール扮する元夫が仕掛ける復讐の方が遥かに相手に痛手を負わせるものだ。根に持つ男の復讐は実に女々しい。 

「女々しい」という言葉は取り扱い注意だ。女性が男性に対して言う場合は。プライドが高い男にとって、この言葉は本当に堪える。 僕も昔、付き合っていた歳下の女性から「女々しい」と言われたのは今も忘れられない苦々しい経験だ。 

作家志望の元夫はそのプライドの高さ故の柔軟性の無さとで、愛想を尽かされる。15年も経ってから「かつての自分とは違うぜ」とばかりに暴力的な小説を元妻に送る。 でも、結末を含めて、この復讐そのものが女々しいんだよね…。 エイミー・アダムスは自己嫌悪に陥っただろうけど、一方のギレンホールもまた虚しさを感じるだけだと思う。

映画『ノクターナル・アニマルズ』の一場面

(映画.comより)

醜悪なる俗物たち

作家志望だった元夫が目指すのは孤高のクリエイター。トム・フォード監督はこのキャラクターに自身を投影するとまではいかなくとも、深い共感を表している。彼もまた世界トップのクリエイターだからだ。

そして、彼を取り巻く商業主義者たちに対する本音は辛辣で、本作の至る所に滲み出ている。「下品で醜悪な連中め…」という監督の声が聞こえてきそうだ。 

面白いのはエイミー・アダムスの役にまでその矛先が向けられていることだ。夫に浮気される可哀想な人妻ではなく、この女は孤高な作家性を尊重しない商業主義者だ。だから復讐を受けるのは当然の報い、というのが監督の目線だと思う。あの結末には「ざまあ見ろ、俗物めが」という監督の意地の悪さが詰まっている。 

そして、監督の怒りの矛先は映画を観る一般大衆に対しても容赦無い。「私は孤高で、お前たちはみな俗物に過ぎない」と。そこまで言っちゃってるようなものだから。ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)とはそんな「醜悪なる俗物たち」のことなのかも。 でも、そんな俗物たちがトム・フォードのブランド製品を喜んで買うほどに彼のジレンマは大きくなるはず。本作が彼にとって良いガス抜きになるといいな。 

(画像は映画.comより引用)

僕の評価

7点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

トム・フォードはプライベートで辛いことでもあったんか?というくらいの毒気に満ちた物語でしたね。好きですわ、この感じ。

どうでも雑感

・俳優陣が皆いい演技をしているので、それだけでも見応え十分だ。特にテキサスのヤニ臭い刑事役のマイケル・シャノンは素晴らしい。画面を通り越して口臭まで漂ってきそうな存在感だった。彼はもう今年の最優秀助演男優賞ものだ。

・アダムスとギレンホールの両者は20代前半と30代後半を演じ分けている。 現在を描くパートでは顔の小ジワが目立つのだけど、過去パートではお顔がツルツル。残酷なくらいにお肌の質感が違うのね…。 たぶんCGで若返りをしてると思うのだけど、俳優に気を使うことなく、老いの表現に容赦が無い(ありのままに見せている)ところがいいな〜と。

・最近はいい感じにオバチャン化が進んでいるエイミー・アダムス。でも年齢を重ねてもまだ、お姫様感がある。小泉今日子化しているような…。

鑑賞方法

2020年10月時点で『ノクターナル・アニマルズ』はアマゾン・プライム、Rakuten TVなどで動画配信されております。
また、DMM.comの宅配DVDレンタルにて鑑賞をすることができます。初月は無料です!

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