『斬、』これは国防論?時代劇だけど塚本晋也作品の王道!

映画『斬、』の一場面 ドラマ
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
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僕は中学3年生の頃からずっと塚本晋也監督のファンです。

最初に観たのは『ヒルコ/妖怪ハンター』でしたが、本格的にハマったのはやはり『鉄男 TETSUO』ですね。両親に「コイツ、やばい映画を観てるな」と思われるのが怖くて、家族全員が寝静まってから真っ暗な部屋でヘッドホンつけて観てましたよ。ドキドキしながら。

監督の最新作である本作は僕が住むカンボジアでは上映されず(カンボジアで一般公開される邦画は年に3〜5本)、ずーっとネット配信を待った果てにようやく鑑賞に至りました。

(※この記事は僕が他ブログに投稿した内容を再編し投稿しております。)

タイレンジャー
タイレンジャー

時代劇だけど国防論でもある!

作品概要

2018年製作/80分/PG12/日本
配給:新日本映画社
監督・製作・脚本・編集:塚本晋也
撮影:塚本晋也 林啓史
音楽:石川忠
出演:池松壮亮/蒼井優/中村達也/前田隆成/塚本晋也 ほか

「野火」「六月の蛇」の塚本晋也監督が、池松壮亮と蒼井優を迎えて描いた自身初の時代劇。250年にわたって続いてきた平和が、開国か否かで大きく揺れ動いた江戸時代末期。江戸近郊の農村を舞台に、時代の波に翻弄される浪人の男と周囲の人々の姿を通し、生と死の問題に迫る。文武両道で才気あふれる主人公の浪人を池松、隣人である農家の娘を蒼井が演じ、「野火」の中村達也、オーディションで抜擢された新人・前田隆成らが共演。「沈黙 サイレンス」など俳優としても活躍する塚本監督自身も出演する。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。

映画.comより)

予告編

池松壮亮×蒼井優!塚本晋也監督作『斬、』予告編

感想・考察(ネタバレなし)


塚本監督にとって初の時代劇となる本作ですが、実は超〜王道な塚本映画でしたね。

そして、現代日本にも通ずる国防についての映画でもあります。

すっごい単純な話をしますけど、塚本映画って男女三角関係の話が多いんですよね。とは言っても単に恋愛の三角関係ではありません。対決する2人の男と、それに巻き込まれる女性、という話がヒジョーに多い。

男Aと女Aが平穏に暮らしているところに、暴力性を象徴するような男Bが現れる。

男Aは闘うことができない。(ある意味では不能)

そんな男Aに失望する女A。

同時に女Aは(男Bの影響で)自我を解放していく。

戦わざるを得なくなった男Aは内に眠る暴力性を発揮して、男Bに挑む。

しかし、男Aも女Aも元に戻れぬ境地まで達してしまう。

…という大筋に当てはまるのが『鉄男 TETSUO』『東京フィスト』『双生児』『六月の蛇』そして本作ですね。

それぞれが鉄と肉体、ボクシング、双子、性、侍、と異なった題材を扱っていても、大筋は同じなんですよ。

男Aはだいたい情けない奴なんですよ。平和ボケした日本と同じで、いざという時に戦えない。そんなところを女Aになじられたりする。

これね、こういう風に置き換えると分かりやすいですよ。

男Aと女A=現代の日本

男B=日本を軍事的に攻撃・侵略する他国

日本は戦争はできないのだけど、国内では「いや、報復しろー!」という世論もある程度は高まるわけですよ。そんな世論に流されてしまったらどうなるのかと。

そう、塚本映画はこういった「暴力の連鎖(報復)」について描くことが多い。本作の登場でそれがより明確になったと思います。

で、男Aと女Aがどんどんインモラルな道に突き進んでいくのですが、その一方でどこか開放感のようなものがあるのも各作品に共通しています。

開放感があるというのは、それまでに彼らが日々の生活に抑圧されてきた上に、男Bによって精神的に侵害を受けたからです。

で、抑圧と侵害から解放を得るにはどうするのか?報復なのか?を問う。これが1つのテーマなのも共通点ですね。

戦争レベルも含めた広義の暴力に対して、単純に報復するカタルシスも描きつつ、監督は暗にそれらを否定していると思います。

そういった点から、本作は塚本映画の王道だなぁ、と思うわけです。

ただ、塚本映画も徐々に変わってきていまして、少しずつシンプルに、のびのびとした作品になってきている気がします。そして本作はその傾向が顕著です。

表現の過激さは影を潜め(エログロは控え目)、よりテーマ性に重きを置いた作品です。

だから、従来の塚本映画に比べて分かりやすくて、観客にとってはテーマに対して他人事ではなく「じぶん事」として捉えやすくなっているのではないでしょーか。最後の展開が「お前ならどうする?」と観客の判断に委ねられていることからも、それは監督の狙いでしょうね。

人を斬ることができないサムライ=戦争がてきない現代の日本、と捉えるのがいちばん簡単ですが、それに限らず普遍的なテーマを描いた映画です。

僕の評価

7点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

実は殺陣などの視覚的な部分はそこまでアクが強くなくて、やはりテーマ論ありきの映画なんですよね。塚本監督が渋ーい境地に入ってきました。

どうでも雑感

・蒼井優ちゃんはかなり持ち味を発揮できているのではないでしょーか。可愛いです。

鑑賞方法

『斬、』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

・TSUTAYA TV |30日間無料お試し期間実施中

※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

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