『ブリグズビー・ベア』感想・考察:障壁がない、歪なファンタジー

映画『ブリグズビー・ベア』の一場面 ドラマ
(C)2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.
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むむむ~。個人的には2018年最大の問題作。

本作ををどのように捉えて良いのか分からず、しばらく筆が止まっていた。手強い映画だ。

※以下、ややネタバレあり。

タイレンジャー
タイレンジャー

どこからがネタバレなのか、境界線がよく分からない映画なんですが。

作品概要

原題:Brigsby Bear
2017年/アメリカ/97分
監督:デイブ・マッカリー
脚本:ケビン・コステロ/カイル・ムーニー
撮影:クリスチャン・スプレンジャー
音楽:デビッド・ウィンゴ
出演:カイル・ムーニー/マーク・ハミル/ジェーン・アダムス/グレッグ・キニア/クレア・デインズ ほか

赤ん坊の頃に誘拐され、偽の両親のもとで彼らが制作した教育番組「ブリグズビー・ベア」だけを見て育った25歳の青年が、初めて外界に出たことから巻き起こる騒動を描いたコメディドラマ。外の世界から隔絶された小さなシェルターで、両親と3人だけで暮らす25歳のジェームス。子どもの頃から毎週届く教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」を見て育った彼は、現在はその世界の研究に没頭する日々を送っていた。そんなある日、シェルターに警察がやって来て、両親は逮捕されてしまう。これまでジェームスが両親だと思っていた男女は、実は誘拐犯だったのだ。ジェームスは生まれて初めて外の世界に連れ出され、“本当の家族”と一緒に暮らすことになるが……。スタッフ・キャストにはテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のチームが集結。ジェームスの育ての父親テッドを「スター・ウォーズ」シリーズのマーク・ハミル、カウンセラーのエミリーを「ロミオ&ジュリエット」のクレア・デーンズがそれぞれ演じる。

映画.comより)

予告編

『ブリグズビー・ベア』 6月23日(土)公開!

感想・考察(ネタバレなし)

主人公は被害者ではない?

主人公のジェームス(25歳)は誘拐され20年以上も軟禁されていたわけですが、本作の作り手は彼のことを「被害者」としては描いてない。

そして、ジェームス自身も自分のことを「被害者」とは認識していない。

本作はこの点が重要ですよねぇ。

両親だと思っていた人が実は誘拐犯で、現実世界から隔離されていたというジェームスの特殊な「育ち」は重大な悲劇ではないんですよ。本作においては。

家が金持ちか貧乏か、地元は都会なのか田舎なのか、という話と同じようなレベルで「ちょっと辺鄙なところで育ったけど」くらいの扱いですよね。

少年の誘拐軟禁が異常な事件ではなく、1つの「生まれ育った環境」なんですわ。

少なくともジェームスにとって隔離シェルターの中での偽両親との生活はある程度幸せであった様子。下手したら実の両親の下で育つよりも快適だったかもしれない。

この主人公が被害者でない、という捉え方が本作のユニークなところであり、あまりの事件性の無さに違和感を感じてしまうところでもありますー。

映画『ブリグズビー・ベア』の一場面

(C)2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

みんな優しすぎ

文字通りの箱入り息子として、(誘拐軟禁ながらも)愛情を持って育てられたジェームスを待ち受けていた外の世界は、辛く厳しい現実…

ではなかった!

関わる人みんなが、優しいんですよ。

一部のマスコミやカウンセラーを除いては、関わる人みんながジェームスを色眼鏡で見ることなく、彼の嗜好を受け入れ、応援する。

それも、ジェームスのことを不憫に思って優しくするのではなく、純粋に彼のやりたい事に共鳴して優しく協力するというのがポイント。やはり周囲の人間もまた、彼のことを被害者というよりもクリエイターとして扱っています。

この手の主人公に対しては、彼の存在を悪用しようとする人間や、邪魔をする人間が出てくるのが定番なんだけど、ほぼそういう人が出てこない。

主人公が被害者ではない、というのに加えてこの点もまた物語の定石を外しているんですよね。

映画『ブリグズビー・ベア』の一場面

(C)2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

全てが上手くいきすぎ

周囲の理解と応援に加えて、ジェームス自身の現実世界への順応性・コミュニケーション力の高さもあって、彼の新生活はほぼ順調に進んでいく。

そして、自主制作で「ブリグズビーベア」の続きを撮るというのも、拍子抜けするほどうまく事が運んでしまう。

終盤前のある展開で一時的な挫折があるんだけど、これまた驚くほどアッサリと解決される。

この点でも、主人公が困難なゴールに向かってあらゆる障壁を乗り越えて…という定番からは外れていて、障壁がほぼ無い。

つまり、主人公の想いや行動を妨げたり足枷になるような要素がことごとく排除されているんです。例えそれらが物語を盛り上げるための定番要素だとしても。

起承転結の「転」を敢えて抜かしてあるというか。

むしろ起・承・好々・結みたいな。なんじゃそりゃ。

敵が居なければ困難も無い、全てが友好的もいうファンタジーぶりが、僕にとっては逆に歪に感じられてしまったというわけですー。

ただ、そんな了見の狭いことを考えなければ、話のテンポも良いし、俳優陣も良い味出してるし、素直に「良かったね~」と爽やかに感動できる映画かな?

僕も最初は「ジェームス、良かったね~」とは思ったものの、「でもこれってどーなのよ」という違和感もあって、それが何なのか思いを巡らせた結果がこの感想です。

ただ、こういう感想は

毒を持たない種類の蛇に対して「お前、毒は無いんかい」とケチをつけるようなものなので、

(↑なんだこの例え)

映画よりも、僕の心の方に問題があるという解釈で、皆さまひとつよろしくお願いします。

僕の評価

4点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

あまりに楽勝ムードで進行するので、本当に主人公にとってこれで良かったのだろうか?

どうでも雑感

・まぁ結局は引きこもり系オタクと主人公は大差ないのかな、と。

鑑賞方法

『ブリグズビー・ベア』はU-NEXTで鑑賞できます。31日間無料トライアルキャンペーンがあるのでぜひ。
本ページの情報は2020年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにて
ご確認ください。

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