『ぼくのエリ 200歳の少女』【北欧ですなぁ】静謐と余白と残酷性

映画『ぼくのエリ 200歳の少女』の一場面 ホラー
(C) EFTI_Hoyte van Hoytema
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北欧ですなぁ。

北欧に行ったことないし、東南アジアに住む僕がそんなこと言ってもまるで説得力がありませんが、一般的にイメージされる「北欧っぽさ」が存分に出ていて、思わず「北欧ですなぁ」と口走ってしまう映画ですね。

ちょっと抽象的なんですが、僕が本作に感じた「北欧っぽさ」は
静謐
余白
残酷性
ですね。


タイレンジャー
タイレンジャー

実際の北欧を知らない人間が抱いている「北欧のイメージ」をベースにという前提で、ちょろっと書いてみやす。

作品概要

2008年製作/115分/PG12/スウェーデン
原題:Let the Light One in
配給:ショウゲート
監督:トーマス・アルフレッドソン
原作・脚本:ヨン・アイビデ・リンドクビスト
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽:ヨハン・セーデルクビスト
出演:カーレ・ヘーデブラント/リーナ・レアンデション/ペール・ラグナー/ヘンリック・ダール/カーリン・バーグクィスト/ペーテル・カールベリ/イカ・ノード/ミカエル・ラーム ほか

永遠に年をとらないバンパイアの少女と、孤独な少年の交流を描いたヨン・アイビデ・リンドクビストのベストセラー小説「モールス」の映画化。内気で友達のいない12歳のオスカーは、隣の家に引っ越してきた不気味な少女エリに恋をする。しかしエリの正体は、人間の血を吸いながら町から町へと移り住み、200年間も生きながらえてきたバンパイアだった。2008年のトライベッカ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。

映画.comより)

予告編

映画『ぼくのエリ 200歳の少女』予告編

感想・考察(ネタバレなし)

静謐

せいひつ。この言葉、なんとなく使ってみたかったんですよね。静寂とはちょっと違って「静かで穏やかな様子」という意味らしいですが、グッと文学的な香りが増すではありませんか。

本作は本当に静かな作品です。夜に何気なく鑑賞し始めるとうっかり寝てしまいそうです。

これって雪国特有の静けさなんですよね。本作の舞台は冬で常に雪が積もっている状態です。僕の地元も雪国なのでよく分かるんですが、積もった雪って音を吸収するから、雪国の夜は本当にシンッと静かなんですよ。

あの静けさと空気感が画面上から本当によく伝わってきますね。静まり返った中だからこそ、オスカーとエリが交わすモールス信号という物音が効いてくるのではないでしょーか。

それに屋外に人の気配が無くて閉鎖的な印象の街の様子というのも雪国らしさが出ています。この閉塞感がオスカーとエリの孤立感を引き立たせてるように思えます。

この静かな舞台が物語にうまくマッチしていますね。そして何やら文学っぽさも醸し出しています。

映画『ぼくのエリ 200歳の少女』の一場面

(C) EFTI_Hoyte van Hoytema

余白

本作は意図的に余白を多めに作っていると思います。

どっかの国の映画みたいに何でもかんでも台詞で説明しちゃう映画もあれば、単に説明不足ゆえの余白もあったりしますが、本作は余白の設計がうまいなぁーと思いました。

余白を作るというのは作品の底を敢えて見せないことだと思いますが、観客に想像や解釈の余地を残すことによって作品の広がりと深みを作り出していますね。

例えば、オスカーが別居している父親と楽しそうに過ごす場面。父親は本当にオスカーを愛している様子で、いつも暗い表情のオスカーが心の底から笑っているのを見て「あぁ良かったね」と思うんですが、父親の友人の男性が訪ねて来た途端に気まずい雰囲気になりますよね。

なに?この変な空気?と思ったのですが、「察してくれ」と言わんばかりに「変な空気」を超える説明はされません。

特に変わったのは父親の態度です。それまでオスカーに向いていた意識が一気に友人(と酒)に向いてしまい、それを感じてしまったオスカーも居心地が悪そうな様子です。
調べたところ、どうやら父親は、

A.その友人男性と恋愛関係にある

B.アルコールで人が変わってしまう

といった解釈があるようです。

いずれにしても、オスカーが「ここには居場所が無い」と痛感するということだけは観客に伝わるようになっています。ただその理由はご自身の経験と推測をもとに補完して下さいねウフフ、ということですね。

余白が余韻を生み出す好例だなぁと思います。

映画『ぼくのエリ 200歳の少女』の一場面

(C) EFTI_Hoyte van Hoytema

残酷性

オッシャレ〜で小綺麗なイメージの北欧ですが、同時に血生臭い残酷性も似合うんですよね、なぜか。
『ドラゴンタトゥーの女』のオリジナルである『ミレニアム』シリーズもスウェーデン産、『ミッドサマー』もスウェーデンが舞台ですし、そのイメージが強いかな?


確かに本作はグロ描写もあるんですが、どちらかと言うと、いじめやそれに対する報復の点で「子どもならではの残酷性」が出ているなーと感じます。加減を知らない子どもだからこそ、やることが結果的に残酷になっちゃうアレ?あの感じが出てますねえ。

それに、オスカーとエリの末路を考えると…2人は純粋に結ばれているのかもしれませんが、残酷な結末が待っているような気がしてなりません。何となくそういう不穏な余韻を残して終わるのも本作の良いところですね。

いやはや、本当に「北欧」でございました。

僕の評価

7点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

眠くなるので昼間に観ましょう。お耽美でいい映画です。

どうでも雑感

・余白に関してもう少し書くと、「察してくれ」という余白の残し方がオシャレというか、深みがあるというか。それも、ちょっと考えたら手の届きそうな難易度なのが良いんですよね。謎は謎でもサッパリ分からないタイプの映画もありますが、それとは明らかに違う、うまく計算された余白だと思います。

・日本の映画ファンの間では不評なボカシの一件は全く知らずに見まして、「オスカーったらスケベ!」くらいにしか思ってなかったので、後で本来映っているものを知ってビックリしました。それもボカシかけるの?という意味でも。ボカシをかけることによって逆にいやらしい意味になってしまうという悪例ですね。

・邦題に関しては僕はいつも間違えて『いとしのエリ…』と言いそうになってしまいます笑。

鑑賞方法

『ぼくのエリ 200歳の少女』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。

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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

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