『去年マリエンバートで』【プログレ映画】暗示型という新手のナンパ術

映画『去年マリエンバートで』の一場面 ドラマ
(C)1960 STUDIOCANAL - Argos Films - Cineriz
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「映画史上最も難解な映画」として知られる作品ですが、本作をどのように位置づけて観るのかが重要な気がします。

個人的には「プログレ映画」として捉えましたので、謎めいた物語の解釈も含め、書いていきます。

タイレンジャー
タイレンジャー

ホテルに集う人々は本当に人間なの?

作品概要

1961年製作/94分/G/フランス・イタリア合作
原題:L’annee derniere a Marienbad | Last Year at Marienbad
配給:セテラ・インターナショナル
日本初公開:1964年5月
監督:アラン・レネ
脚本:アラン・ロブ=グリエ
撮影:サッシャ・ビエルニ
美術:ジャック・ソルニエ
衣装:ココ・シャネル ベルナール・エバン
音楽:フランシス・セイリグ
出演:デルフィーヌ・セイリグ/ジョルジョ・アルベルタッツィ/サッシャ・ピトエフ ほか

フランスの名匠アラン・レネが1961年に手がけ、同年の第22回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した一作。戦後世界文学にムーブメントを巻き起こした文学運動ヌーボーロマンの旗手アラン・ロブ=グリエが執筆した脚本で、ヌーベルバーグ左岸派の代表格とされるレネがメガホンをとるという奇跡的なコラボレーションが実現し、「映画史上最も難解な映画」とも称される一作だが、後の映画作家たちにも多大な影響を与えたとも言われている。時代も国籍も不明なバロック調の宮殿のようなホテルに宿泊し、社交に興じる客たち。その中に女Aと男X、男Mの3人がいた。MとAは夫婦だが、XはAに対し、1年前に会い、愛し合ったと語りかける。Aは否定するが、Xは1年後に駆け落ちする約束もしたという。Xの話は真実か、それとも……。ヒロインのデルフィーヌ・セイリグが劇中で着用しているドレス数点を、晩年のココ・シャネルが自らデザインした。2018年、シャネルのサポートによって完全修復が施され、同年のベネチア国際映画祭でプレミア上映。日本では19年10月「4K デジタル・リマスター版」としてリバイバル公開。

映画.comより)

予告編

「シャネル」によってデジタル完全修復/映画『去年マリエンバートで 4Kデジタル・リマスター版』予告編

感想・考察(ネタバレなし)

これぞプログレ映画!

「映画史上最も難解な映画」とも称される本作は、同時に「プログレ映画」と呼ぶにもふさわしいと僕は思っています。

以前、『シルバー・グローブ/銀の惑星』についても同様にプログレ映画と勝手に認定したのですが、難解で哲学的な内容、特異なヴィジュアルを持った先進的(プログレッシヴ)な映画という(僕の中での)定義です。


他にも『2001年宇宙の旅』やアンドレイ・タルコフスキーの映画がプログレっぽいと言うと、何となくニュアンスは伝わるかもしれませんね。

さて、本作について書いていきますが、まずはプログレ映画の二大要素のうちの一つ「特異なヴィジュアル」から始めましょうか。

本作は終始、宮殿のようなホテルの敷地内でのみ展開されますが、一言で言うと、映像の見せ方が超~デザイン的です。画面の構図がハッとするほど美しく、庭園の木々やインテリア、そして人物に至るまで、すべてが幾何学的に配置がなされています。カメラワークは正確無比で、ココ・シャネルがデザインした衣装もスタイリッシュです。

映画の導入部分からして凄まじいですよ。無人のホテルの内部が流れるようなカメラワークで延々と映し出され、そこに無感情で意味をなさないナレーションが被せられます。物語の展開を担う人間はなかなか出てきません。まずは完璧に造形された映像スタイルが何よりも重視されていることを感じさる幕開けなのです。よって本作は物語よりも視覚的快感が先立つ映画です。

そして全てが美しく整然としすぎているがゆえに、このホテルとそこにいる人々が浮世離れした「非現実的存在」のように感じられます。

それを裏付けるかのように、冒頭の長い長い「無人描写」のあとに、ようやく大勢の紳士淑女が一堂に会した社交場があらわれますが、どういうわけか、彼らは一定の間隔で蝋人形のように「停止」してしまいます。一時停止ボタンでも押されたかのように皆が一様に「停止」と「再開」を繰り返すのです。これは一体何なのでしょうか。

映画『去年マリエンバートで』の一場面

(C)1960 STUDIOCANAL – Argos Films – Cineriz

難解な物語をどう解釈するか

このホテルで社交を繰り広げる紳士淑女たちが「血の通った人間」であるとはどうしても思えませんでした。整然と完璧に統制された映像と同様に、本作に登場する人物は皆、整いすぎているのです。

僕が本作を観て連想したのはスタンリー・キューブリックの『シャイニング』でした。雪山の閉ざされたホテルの宴会場にてパーティーに暮れる「身なりの整った」亡霊たちの存在が、本作の紳士淑女たちと重なって見えた、というわけです。

本作を『シャイニング』的なフィルターを通して考えると、納得のいく部分もあります。この豪奢なホテルに集う無機質な人々はホテルに住み着いた亡霊たちで、自身の死を知ってか知らずか、止まった時間の中で社交に明け暮れている、という解釈ができるのではないでしょうか。

彼らは決してホテルの外に出ることはなく、無感情に、死後をまるで余生のように悠々自適と生きています。そんな幽霊屋敷にて大きく感情が揺れ動く男女がいた、というのがこの映画の本筋です。

男Xは女Aに熱く語りかけます。「私たちは1年前に愛し合った。駆け落ちの約束を守るため、迎えにやって来た」と。しかし女Aにはその記憶が無いどころか、男Xの存在も知りません。食い違う両者の認識はやがて記憶の迷宮へと突入していきます。

男Xは女Aに対して(記憶を取り戻してもらおうと)延々と「ふたりの過去」を説き伏せるのですが、段々と【暗示型という新手のナンパ術】に見えてきてしまいます。つまりは、口説くために「ふたりの過去」をでっち上げたのでは、と。

女Aには死神のような風貌の旦那がいるのですが、男Xがなかなかの二枚目であったせいか、まんざらでもなく遂には男Xと駆け落ちを決意します。これは情熱に燃えたふたりの幽霊が無機質な幽霊屋敷から脱出を図る、ということになります。

しかし、ふたりのその後である「ホテルの外側の世界」は描かれないまま映画は幕を閉じます。リスクを伴う脱出はふたりにとって吉と出たのかは不明です。

僕の評価

8点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

ずっと眺めていたいくらいの素晴らしい映像ですね。どうとでも解釈できる物語も面白かったです。

どうでも雑感

・男Xは女Aの旦那(男M)が得意とするゲームには決して勝てないんですよね。これはホテルに住み着く亡霊たちは皆、整然と管理されている、という意味のように感じられますね。だからこそ、脱出しようという気も芽生えるんだなぁと。

鑑賞方法

『去年マリエンバートで』はアマゾン・プライム、ビデオマーケットにて配信中です。

※本ページの情報は2020年12月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

難解な映画シリーズ

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