たまには音楽の話でもしましょうか。
僕もようやく本作を鑑賞するに至ったのでレビューを書こうかと思いましたが、既に多くの方々によって熱く語られ尽くされた感があるので、方針転換です。
今回は本作と間接的に関連したロックの名盤について語ります。それもいわく付きの。
シャロン・テート事件の後日談です。
作品概要
2019年製作/161分/PG12/アメリカ
原題:Once Upon a Time… in Hollywood
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
撮影:ロバート・リチャードソン
視覚効果デザイン:ジョン・ダイクストラ
出演:レオナルド・ディカプリオ/ブラッド・ピット/マーゴット・ロビー/エミール・ハーシュ/マーガレット・クアリー/ティモシー・オリファント/ジュリア・バターズ/オースティン・バトラー ほか
クエンティン・タランティーノの9作目となる長編監督作。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという2大スターを初共演させ、落ち目の俳優とそのスタントマンの2人の友情と絆を軸に、1969年ハリウッド黄金時代の光と闇を描いた。第92回アカデミー賞では作品賞や監督賞、脚本賞、ディカプリオの主演男優賞、ピットの助演男優賞など計10部門でノミネートされ、助演男優賞と美術賞を受賞した。テレビ俳優として人気のピークを過ぎ、映画スターへの転身を目指すリック・ダルトンと、リックを支える付き人でスタントマンのクリフ・ブース。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに神経をすり減らすリックと、いつも自分らしさを失わないクリフは対照的だったが、2人は固い友情で結ばれていた。最近、リックの暮らす家の隣には、「ローズマリーの赤ちゃん」などを手がけて一躍時代の寵児となった気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーと、その妻で新進女優のシャロン・テートが引っ越してきていた。今まさに光り輝いているポランスキー夫妻を目の当たりにしたリックは、自分も俳優として再び輝くため、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演することを決意する。そして1969年8月9日、彼らの人生を巻き込み、ある事件が発生する。
(映画.comより)
予告編
音楽にまつわる小話(ネタバレなし)
本作を観る上で予習が欠かせないのが「シャロン・テート事件」。ロマン・ポランスキー監督の妻であり女優のシャロン・テートがチャールズ・マンソン率いるカルト教団によって惨殺されたという1969年の猟奇的事件です。
お腹の中の子と共にシャロンが命を奪われた豪邸はビバリーヒルズにありましたが、驚くべきことに、事件後にこの忌まわしき惨劇の館でレコーディングされたロックの歴史的名作があります。
ナイン・インチ・ネイルズ
『ザ・ダウンワード・スパイラル』(1994)
カート・コバーン亡き後の90年代米国ロックにおいて最重要の作品であり、僕の最愛アルバムです。
1992年、同バンドのフロントマン、トレント・レズナーはこのアルバムの制作のために旧シャロン・テート宅を借り、殺害現場となったリビングルームを改装してレコーディングスタジオとして使用しました。
トレントは事件との関連を知らずにこの家を借りたとコメントしていますが、まぁそれは方便でしょうね。
スタジオ名は”Le Pig”。これはシャロン殺害時にマンソンの信者たちが家に”PIG”と落書きをしたことが由来だと言われています。その赤い文字はシャロンの血によって書かれたものです。
同アルバムには”March of the Pigs(ブタさんのマーチ)” や ”Piggy(子豚ちゃん)” という曲が収録されており、やはりこの家が創作上のインスピレーションをもたらしたと考えられます。曲名は絵本のようですが、その内容は超破壊的です。
今思えば、90年代は猟奇モノがブームでした。映画では『羊たちの沈黙』『セブン』があり、書籍では『FBI心理分析官』がベストセラーになったのもこの時代です。
そんな猟奇ブームと絶妙にタイミングが合ったこともナイン・インチ・ネイルズが時代の寵児となった要因の一つだと考えます。
「お前を獣のように犯したい」や「今日、自傷をした」などの過激な歌詞や、男が機械でミンチにされてミミズに喰われるという内容のミュージックビデオを制作(放送禁止)するなど、時代が求める「猟奇的な刺激」を持ち合わせていたのが同バンドだったのです。
事実、『セブン』の画期的だったタイトルバックで使用された音楽は同バンドの代表曲”Closer”のアレンジ版でした。
トレントはこう語っています。「10代の頃から極端に刺激的なものを追い求めていた。恐怖小説で怖いのはスティーヴン・キング、もっと怖いのはクライヴ・バーカー、もっと怖いのは・・・というように。田舎の退屈な生活を埋められるならどんな刺激でも求めた」と。
音楽スタイルではインダストリアルロックを、歌詞世界では自己破壊を表現してきたトレントは、映像では猟奇的な表現を用いるアーティストでした。
ロックアーティストには数々の奇行が付き物ですが、トレントが旧シャロン・テート宅を借りてレコーディングをしたのは単なる奇行というよりも彼なりの創作上の表現であるように思えます。
上で紹介したアルバムよりも前の曲ですが、”Gave Up”という曲ではその邸宅あらためスタジオにて撮影されています。ビデオの内容はどうってことはありませんが、場所が場所ですからねぇ。
この曲には別のミュージックビデオが制作されていましたが、チェーンソーで人体が切り刻まれるという内容が過激すぎたため、こちらのビデオに差し替えとなった経緯があります。
ちなみにギターを弾いている長髪の痩せた男はすっぴんのマリリン・マンソン。
その怪人マリリン・マンソンもまたトレント・レズナーのプロデュースによって世に出た存在です。彼もまた当時は猟奇的な表現を用いるアーティストでした。
名前の由来が米国のセックスシンボル、マリリン・モンローと悪魔的シンボル、チャールズ・マンソンの掛け合わせですから、やはりここでも事件からの創作上の影響が伺えます。
そしてやはり彼のデビューアルバムもまたLe Pigにてレコーディングが行われました。
忌々しい事件をこうした形でほじくり返すトレントの一連の行動に眉をひそめるひとは多かったはずです。
実際、シャロンの姉から「妹の死を利用するつもり?」と抗議を受けたトレントは「この場所には俺の手に負えない歴史がある」と発言し、その後この邸宅を後にしています。ハリウッド住民との間にいくらかの遺恨を残して。
しかし、仕上がったアルバムは何よりも素晴らしかった。
攻撃的なノイズの猛爆撃と、ふと訪れる静謐な美しさが同居する、過剰で隙の無い全14曲です。
僕は高校生の時からずっと、いまだによく聴いていますが、これを超えるアルバムにはまだ出会えていません。
トレントもまた本作で極みに到達した感があり、のちにもこれを超えるようなアルバムを出せていません。
同アルバムに収録された最も有名な一曲↓
映像も素晴らしいです。
そんなトレントは今となっては映画ファンの間で『ソーシャル・ネットワーク』『ドラゴンタトゥーの女』『ゴーン・ガール』の音楽担当として広く知られています。
旧シャロン・テート宅の件でハリウッドの人間たちの神経を逆なでした彼が『ソーシャル・ネットワーク』の音楽でアカデミー賞を受賞した2011年は感慨深いものがありました。
それとどこか重なるように映画『ワンス〜』また、過去に生じた溝や傷を埋めるような愛と優しさに溢れた作品だったと思います。
映画界も音楽界も、90年代の殺伐とした病みの時代からうって変わって、刺々しい作品よりも丸みを帯びた優しい作品が評価される傾向が強くなっているのではないでしょうか。
猟奇ブームはもうしばらく来なさそうな気がしますね。
トレントが去った後の1994年に旧シャロン・デート宅は取り壊され、今では全く様相の異なる新たな住居に生まれ変わっているそうです。
僕の評価
3点/10点
これは映画そのものに対する評価ですが、あまりに冗長に感じられました。
どうでも雑感
・そもそも僕は『キル・ビル vol.1』以外のタランティーノ映画があまり好きではなくて。どれも展開がゆったりしすぎていて、長いなぁと思ってしまうのです。その点、展開が早い『キル・ビル vol.1』は彼の作品の中でも異色作なんですけどね。
・あと、ディカプリオも好きじゃない(笑)。彼が主演だと感情移入しにくいんです。
鑑賞方法
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は下記のVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中です。
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※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。
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