『ポゼッション』(1981) 【大傑作!】過剰な狂気を重戦車で引きずり回すような映画

映画『ポゼッション』の一場面 ホラー
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僕の生涯ベスト10に余裕で入る変態映画です。

それがなんと!公開40周年記念のHDリマスター版が2020年1月に日本の主要都市の劇場にて順次公開されたんですね~。嬉しい!嬉しいぞー!(カンボジア在住だから観に行けないけど)

てなわけで、今回は本作の劇場公開を記念して感想を書いてみることにしましたー。


タイレンジャー
タイレンジャー

これを上回るようなぶっ飛んだ映画にはなかなか巡り会えません。

作品概要

1980年製作/124分/フランス・西ドイツ合作
原題:Possession
配給:スティングレイ
監督・脚本:アンジェイ・ズラウスキー
撮影:ブルーノ・ニュイッテン
音楽:アンジェイ・コジンスキー
特殊効果:カルロ・ランバルディ
出演:イザベル・アジャーニ/サム・ニール/ハインツ・ベネント/マルギット・カルステンセン/ヨハンナ・ホーファー/カール・ドゥーリング/ショーン・ロートン/ミシェル・ホーベン/レスリー・マルトン/マキシミリアン・ルシュレイン ほか

ポーランドの鬼才アンジェイ・ズラウスキーが、「アデルの恋の物語」のイザベル・アジャーニ主演で描いた不条理スリラー。西ドイツ、ベルリン郊外。単身赴任を終え妻子の待つ自宅へ帰ったマルクは、妻アンナの態度がどこかよそよそしいことに気づく。アンナの友人マージからある男の存在を聞いたマルクは妻を責めるが、彼女は浮気を認めるどころか夫を完全に拒絶する。ある日、息子ボブを学校へ送ったマルクは、そこでアンナと瓜二つの教師ヘレンと出会う。やがてマルクは妻の浮気相手ハインリッヒと顔を合わせるが、彼もアンナの全てを知っているわけではなかった。マルクは新たに浮上した“第3の男”について調べるべく、私立探偵にアンナの尾行を依頼するが……。マルク役に「ピアノ・レッスン」のサム・ニール。1981年・第34回カンヌ国際映画祭主演女優賞、第7回セザール賞最優秀女優賞など数々の映画賞を受賞した。日本では1988年に劇場公開。2020年1月、製作40周年を記念してHDリマスター版でリバイバル公開。

映画.comより)

予告編

『ポゼッション 40周年HDリマスター版』予告編

感想・考察(ネタバレなし)


僕は過剰な映画が好きです。

その中でも過剰であることが芸術の域に達している映画の頂点が『鉄男 TETSUO』と本作だと思います。

どちらの作品も狂気が重戦車で暴走するような過剰さがあります。いや、狂気が重戦車で引きずり回されているのかもしれません。あまりにぶっ飛んだ狂気で、人によっては観ることが苦痛なのではと心配になるほどの映画なのです。

本作は麗しのイザベル・アジャーニ演じる人妻が狂いに狂い、わめき散らし、自傷し、取り憑かれたかのように地面をのたうち回り、汚物にまみれます。

こんな役を演じたら精神が崩壊しても不思議でないし、もはや演技という行為を超えた、常軌を逸した狂いっぷりなんですね。

それでもアジャー二は美しい。ゾッとするほど美しさが際立つ瞬間があります。
美しいものが崩壊していく様がこんなにも壮観だとは。他の映画ではなかなか思い知らされません。アジャーニが演じなければ成立しなかったと思います。

あと、本作で注目なのが異形愛ですね。
人妻の浮気相手は人間ではなく、得体の知れないグロテスクな生き物だったのです。
アジャーニがタコのような化け物とセックスする映画、という紹介のされ方がしばしばありますが、実際にその通りですからね。

しかも、この浮気相手は人妻と交わるごとに肉体が変容していきます。
コイツは一体ナニ?と嫌が応にも惹きつけられますが、その正体は明確にならないまま、終盤は更なる混沌へと突き進んでいきます。

ただ、人妻が心の隙間を埋めるために、自分で愛するものを生み出した、と解釈することはできます。
予告編にもある通り、「とりつかれた私は、怪物を生み出した」ですね。

本作を表面的に「狂った妻がバケモノと交わっていた!」という観点から見るとホラー映画ですが、根底にある家族崩壊の物語を極端にデフォルメした結果のホラーだということが読み取れます。

奥さんが宗教にハマっちゃって関係が破綻したというズラウスキー監督の実体験が反映されている、とどこかで読んだのですが、それも納得です。

愛する人が変貌してしまうことへの恐怖、というのは本作のひとつのポイントなのですね。

あと、本作は難解です。特にラストシーンは一体何が起きたのかサッパリ分からず、目がテンになるのですが、同時に
スッゲェェェェ…ッッッ!!!!
と感動に打ち震えます。泣けるという意味ではなく、とんでもないものを観た!という満足感なんですなぁ。

さらには舞台が東西分断中の西ドイツ、主人公の職業は諜報員、というあたりから何となく社会的・政治的なメッセージが見え隠れします。

人影のないガラーンとした都市景観も魅力です。街の中心部なのに、主要登場人物以外は誰もいなくて全体が廃墟のように見えます。たぶん、そこにも意味があるんだろうなと。

ちなみに、単身赴任で奥さんに寂しい思いをさせちゃダメよ、という庶民的な教訓を与えてくれる映画でもあります。

うーん、心から愛する映画なのですが、感想がうまく書けません。好きな人の前ではうまく話せないのと似ています。

(画像はIMDbより引用)

僕の評価

10点/10点

タイレンジャー
タイレンジャー

全てが素晴らしい!!これは狂った金字塔です!!

どうでも雑感

・読者様にご指摘頂いて気づいたのですが、「ドイツ東西分断を夫婦崩壊に見立てた話」と解釈することもできるんですね。

・本作は難解と言われていますが、同監督の『シルバー・グローブ/銀の惑星』に比べると遥に分かりやすいです。

・「ピンクの靴下」には要注目です。

鑑賞方法

あいにく2020年11月時点で『ポゼッション』はVODによる動画配信されておりません。

※本ページの情報は2020年11月時点のものです。最新の配信・レンタルの状況は各サイトにてご確認ください。

アンジェイ・ズラウスキー監督作品

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